artscapeレビュー
開館25周年記念特別展「柿右衛門展」
2012年05月01日号
会期:2012/04/28~2012/05/31
戸栗美術館[東京都]
実業家戸栗亨(1926~2007)が蒐集した東洋陶磁を展示する美術館の、開館25周年を記念する特別展。ふだんの戸栗美術館は充実した蒐集品をさまざまな切り口で紹介するコレクション展が中心であるが、本展は、柿右衛門家所蔵の史料・現代の作品と、戸栗美術館のコレクションの核のひとつである17世紀後半の柿右衛門様式の磁器とを対比するする試みである。
初代酒井田柿右衛門が創始したといわれる色絵(赤絵)は、17世紀後半にオランダ東インド会社がヨーロッパに輸出したことによって有田の磁器産業とともに大きく発展し、濁手(にごしで)と呼ばれる暖かみのある白い素地とともに、「柿右衛門様式」を完成させた。しかし、17世紀末以降、輸出向けには中国・景徳鎮との国際競争が激しくなったこと、国内では流行の中心が金襴手(きんらんで)に移行したことなどにより、濁手の技術は18世紀(江戸中期)に途絶えてしまった。その技術を1953(昭和28)年に復活させたのが、12代(1878~1963)と13代(1906~1982)の柿右衛門である。そして、当代14代酒井田柿右衛門(1934~)は伝統的な技術を受け継ぐばかりではなく、山野の草花などに取材した新たなモチーフをデザインに積極的に取り入れていることでも知られている。
このように、近代以降の柿右衛門の取り組みは、失われた技術を復興させたり、新たな意匠に取り組むなど、ただ引き継がれてきた伝統を守るばかりではなく、むしろ常に革新を繰り返してきたように思われる。そもそも初代柿右衛門が達成したのは、それまで日本では創り出すことができなかった美しい色絵磁器の製造であった。そして17世紀末からヨーロッパに渡った柿右衛門様式の器は、それまでの染付に代わって人気を呼び、マイセンをはじめ各地で模倣品がつくられた。すなわち当時の人々にとって、日本の色絵磁器は最新のデザインだったのだ。
伝統を守るということはただ同じものを作り続けることではないし、革新とはただいままでと異なる製品を作ることでもない。守るべきものと新しくすべきことは正しく峻別されなければならない。17世紀後半の柿右衛門様式の作品と現代の柿右衛門の作品とをそれぞれの時代の文脈に置いた本展覧会が明らかにするのは、時代を超えて継承される優れた革新の精神なのだと思う。[新川徳彦]
2012/04/27(木)(SYNK)