artscapeレビュー
身体0ベース運用法「0 GYM」
2017年10月15日号
会期:2017/09/02~2017/10/15
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]
「身体0ベース運用法」とは、染色作家の安藤隆一郎によって考案された、ものづくりの観点から出発した身体運用法の名称。安藤の染色作品は、細い線描で描かれた有機的で流体的な形態が、柔らかい色彩のグラデーションで染められた繊細な印象を与えるもので、身体トレーニングとの関連性は最初は意外だった。だが、例えば染色のハケを往復させる腕の動きを素振りのように繰り返し、滑らかに動かせるように練習するなど、身体と一体化した技術への関心が以前からあったという。また、安藤は、スポーツに加え、ブラジリアン柔術や合気道を習っており、鍛えられたダンサーのような体格だ。
本展で提示された「身体0ベース運用法」の基本トレーニングは、「物編」「場所編」「リズム編」の3つに分かれる。いずれも、歩く、座る、走るといった誰もが日常的に行なっている身体運動に、「物の運搬」「地面の凹凸」「リズムの意識」といった契機や負荷を与えることで、バランスの不安定さや重心の移動、皮膚感覚の活性化が生まれ、機械が何でも代行してくれる日常生活の中で希薄化した身体への意識を回復させることを狙いとしている。例えば「物編」では、背負子をしょって歩く、長い木の棒を片手に持って走る。「場所編」では、地面を裸足で歩き、複雑な凹凸や柔軟の違いといった情報を足裏の皮膚感覚で掴む。「リズム編」では、田植え歌や機械労働以前の労働歌のように、反復的な作業を効率良く行なうための気持ちの良い「リズム」を探し、リズムの違いによる身体運動の変化を観察する。こうした実践は、安藤自身がさまざまな場所で行なった記録映像とともに、背負子や木の棒の実物、模擬的なトレーニングフィールドも仮設され、観客が実際に体験することもできる。また、展示室の一室はスタジオとして使用され、「パーソナルトレーニング」に参加した美術作家たちが、トレーニングを行ないながら作品の公開制作を行なっている。
身体意識の活性化を通した「身体づくり」を基盤とする安藤のこうした実践は、既存の美術教育現場への優れた批評でもある。特に美術大学の教育では、「コンセプト」の洗練や「素材」「技法」の習得が重視される一方で、素材を実際に扱う身体の運用や意識の仕方については等閑視されがちだからだ。さらに、「身体0ベース運用法」の思想と実践は、あらゆる人間の活動のベースとなる「身体」を基盤に置く点で、美術に限らず、医療や介護、ダンス、運動科学などさまざまな分野と通底する可能性を持っている。
身体0ベース運用法「0 GYM」 Shintai 0 Base Uny h : 0 Gym from Gallery @KCUA on Vimeo.
2017/09/23(土)(高嶋慈)