artscapeレビュー

渋谷自在──無限、あるいは自己の領域

2017年10月15日号

会期:2017/07/29~2017/09/17

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

2005年にオープンしたトーキョーワンダーサイト(TWS)渋谷が今秋、東京都現代美術館の運営する東京都渋谷公園通りギャラリー(仮称)として生まれ変わるそうだ。ってことで、TWSの最後の企画展として大野茉莉、西原尚、潘逸舟の3人展が開かれた。西原はギャラリー内に古びたトタン板で掘建て小屋を4軒ほど建て、その周囲にも犬小屋か鳥小屋くらいの箱を設置。そのなかに鉄カブトや洗面器などを用いた手づくりの楽器を置いて、タイマーで音が出るように仕掛けた。これはいい。音の出る道具(音具)づくりなら鈴木昭男から松本秋則まで多くの先達がいるが、その音具を効果的に見せる(聞かせる)ための舞台として掘建て小屋まで建てたのは秀逸。いや舞台というより小屋自体も「楽器」の一部と見るべきか。まるで敗戦後の焼け跡の風景を思わせる。2階ではテントを建てて内部に人体の一部を連想させる工作物を吊るし、光を当てて外から影絵のように見せているのだが、これはデュシャンの《独身者の機械》を彷彿させる。渋谷区役所勤労福祉会館内に位置するTWS渋谷の展示空間を最大限に変容させた、最初で最後のすばらしいインスタレーション。
潘は映像と絵画の出品。《海で考える人》と題する映像は深さ2、3メートルほどの海中でプカプカ浮かぶ人を撮ったもので、なにをしてるのかと思ったら、タイトルどおりロダンの彫刻《考える人》のポーズをとり続けているのだ。ブロンズ彫刻とは違い、地に足をつけずに浮遊しながらなにを考えるのか。無重力状態における彫刻のあり方、考え方に再考を促す作品。

2017/09/16(土)(村田真)

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