artscapeレビュー
みくになえ「glare」
2018年12月01日号
会期:2018/11/14~2018/11/25
72 Gallery[東京都]
みくになえの写真展のタイトルになっている「グレア現象」というのは、「車のヘッドライトの光が重なる時、人の姿が見えなくなる」状況を指す言葉だという。みくには、自動車教習所で免許取得の講義を受けている時に教科書でこの言葉を知り、強いインスピレーションを受ける。そこから「ヘッドライトの光が重なる時、失われた魂が再び浮かび上がることもあるんじゃないか」と妄想を膨らませて制作を開始したのが、今回の出品作「glare」である。
みくにの作品は、筆者も審査員のひとりである第34回東川町国際写真フェスティバルの「赤レンガ公開ポートフォリオオーディション」でグランプリを受賞して、今回の個展が実現した。だが、今年8月の受賞時にはまだ作品のクオリティが不十分で、実際に展示ができるかどうかが危ぶまれていた。その後、カメラを精度の高い一眼レフに変え、連続撮影などの手法も取り入れ、さらにスライド上映や展示の仕方もブラッシュアップすることで、見応えのある展示が実現した。あくまでもカメラの機能に身を委ねて、「人の姿が見えなくなる」という現象そのものを定着した写真群は、意図的な「絵作り」を禁欲的に避けることで、逆に観客のイマジネーションを喚起する魅力的な作品として成立していた。ユニークな思考力と実践力とを併せ持つ写真作家の登場といえるだろう。
多摩美術大学芸術学科出身のみくになえには、制作行為をきちんと言語化できる能力も備わっている。今後はそれを活かして、テキストと写真(映像)とを融合させた作品に向かうことも考えられるのではないだろうか。
2018/11/17(土)(飯沢耕太郎)