2020年08月01日号
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artscapeレビュー

府中市制施行65周年記念 おかえり 美しき明治

2018年12月01日号

会期:2019/09/14~2019/12/01

府中市美術館[東京都]

タイトルだけ見てもそそられないが(サブタイトル「『明治の微笑み』をあなたに」を見るとなおさらしおれる)、しかしチラシの絵を見たとたん、行くことに決めた。絣の着物を着てカゴを背負った娘が菊の花を摘んでいる図で、隅々まできちんと丁寧に描かれている。なのに、というか、だからというか、違和感が満々なのだ。いわゆる洋画でもなければ日本画でもない、そもそも美術史に登場するのが場違いのような絵というか。似たような違和感を覚える絵に最近出会ったと思ったら、「リヒテンシュタイン侯爵家の至宝展」に出ていたビーダーマイヤー様式の絵画だ。なにか絵画芸術を飛び越して見る者の琴線に触れるというか、大衆の情をなでるというか。その意味では童画やイラストに近いのかもしれない。

作者は笠木治郎吉。幕末に生まれ、横浜で外国人相手に日本の風俗を描いた水彩画を売っていたという。だから作品は主に海外で流通し、日本ではほとんど知られていなかったのだ。笠木はほかにも漁師の娘、木こり、猟師の老人、花売り娘などを描いた水彩画が10点以上出ているが、どれも草の葉1枚1枚、髪の毛1本1本まで細密描写するクソリアリズムなのに、笑っちゃうほど現実感に乏しい。それはひとつには、日本の昔ながらのモチーフを、西洋的な描写で表すというチグハグさもあるが、それよりなにより、第1次産業に従事している娘が、モデルのように肌が白くて美しいなんてありえないだろって話だ。

同展にはほかにも、徳川慶喜や五姓田芳柳、渡辺幽香らによる日本画とも洋画ともつかない風景画や肖像画、百武兼行、牧野義雄、武内鶴之助ら留学組の西洋の風景画、チャールズ・ワーグマンをはじめ、ジョン・ヴァーレー・ジュニア、アルフレッド・パーソンズら明治期に来日した画家による日本の風景画、さらに彼らに影響を受けた三宅克己、大下藤次郎、丸山晩霞らによる水彩画、多くの画家が絵にした富士山や日光東照宮など、水彩画を中心に油彩、スケッチなど300余点が出ている。ふだんお目にかからない絵や未知の作品にたくさん出会えて、得した気分。

美術史のメインストリームを正面から紹介するのではなく、主流から外れたり忘れられたりした知られざる作家や作品を発掘・再発見するのも、各地にある公立美術館の役割のひとつだと思っている。府中市美術館はまさに公立美術館の鑑だ。

2019/10/27(日)(村田真)

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