artscapeレビュー
クリエイターと福島の窯元がつくる「大堀相馬焼167のちいさな豆皿」
2018年12月01日号
会期:2018/11/27~2018/12/22
クリエイションギャラリーG8/ガーディアン・ガーデン[東京都]
国の伝統的工芸品に指定されている大堀相馬焼(おおぼりそうまやき)を知っている人はどれほどいるだろうか。たとえば益子焼や九谷焼、有田焼といった焼物産地に比べると、それほど全国的に知られた産地とは言えないだろう。大堀相馬焼の集積地は福島県浪江町。2011年の東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の影響を受け、窯元は避難を余儀なくされ、一時、産地は崩壊の危機にさらされた。
何をもって「◯◯焼」と呼ぶかの定義は産地によって異なるが、一般的にはその土地で焼いていること、その土地で採取された陶土や釉薬を使っていること、そこの組合に所属していることなどの条件が挙げられる。また、伝統的な技法や様式を踏襲していることも重要なアイデンティティーとなる。しかし土地を奪われ、汚染により陶土や釉薬も採取できなくなった大堀相馬焼は、そうした定義自体が揺らぐ危機にさらされた。それでも現在、組合や窯元は福島県内の別の地域に拠点を移し、愛知県瀬戸市の瀬戸土を使い、互いに散り散りになりながらも、大堀相馬焼の伝統を守るため製造を続けているという。
本展はチャリティープロジェクトとして開催されたが、単なる被災地支援という枠を超え、そうした土地に深く根づく伝統工芸のあり方を改めて考えさせられた。両会場に縁のある167人のクリエイターが豆皿のデザインを提供し、大堀相馬焼の三つの窯元がその豆皿を製作。会期中に販売も行なわれた。著名なグラフィックデザイナーやアートディレクター、イラストレーターらが提供した豆皿のデザインは種々様々だ。大堀相馬焼の伝統的な文様「走り駒」を意識した馬の絵もあれば、豆皿だけに豆の絵、クスッと笑える絵、端正なグラフィックアートなどが見られた。豆皿の生地は職人がろくろで一つひとつ制作したものだが、絵付けは筆で直接手描きしたものではなく、当然、転写シートである。その点は伝統的な技法とは異なり、味わいがやや薄まるが、それでも大堀相馬焼の名前を周知させるには十分な機会だっただろう。これまであまり知られてこなかった焼物産地ではあるが、奇しくも、危機にさらされたことにより周知の機会を与えられたのである。会場の壁面には、大堀相馬焼の窯元の風景や製造工程をとらえた写真が大きく掲げられていた。その明るく健やかな写真を見ていると、この焼物産地を危惧する気持ちも少し救われたような気がした。
公式サイト:http://rcc.recruit.co.jp/creationproject/2018
2018/11/30(杉江あこ)