artscapeレビュー
FUKUZAWA×HIRAKAWA 悪のボルテージが上昇するか21世紀
2018年12月01日号
会期:2018/10/18~2018/11/17
福沢一郎記念館[東京都]
祖師ケ谷大蔵駅から徒歩5分ほどの地に、福沢一郎のアトリエを改装した記念館がある。アトリエとしてはかなり広いが、美術館とするには狭いので記念館にしたのかもしれない。故郷の群馬県富岡市には福沢一郎記念美術館もあるし。ここで個展を開いているのは、2011年に福沢一郎賞を受賞した平川恒太。平川は藤田嗣治の《アッツ島玉砕》や《サイパン島同胞臣節を全うす》などの戦争画を真っ黒に再現した作品で知られている。ちなみに福沢一郎賞は、福沢が教鞭をとった多摩美と女子美の優勝な卒業生に贈られるもので、平川は多摩美を卒業する際に受賞(その後、東京藝大の大学院に進んだ)。
「悪のボルテージが上昇するか21世紀」という時代がかった展覧会名は、福沢の晩年の作品名から採ったもの。福沢は戦前はシュルレアリスム系の画家として活動していたが、戦時中に治安維持法違反により、日本のシュルレアリスム運動の中心的存在だった詩人の瀧口修造とともに拘禁され、放免後は戦争画も手がけた。戦後、福沢のもっとも知られた作品のひとつ《敗戦群像》を制作。裸体が山のように折り重なったもので、もし「敗戦画」というジャンルがあるとすれば、丸木夫妻の《原爆の図》とともに代表的な作品に数えられるだろう。
《悪のボルテージが上昇するか21世紀》はその40年後、福沢88歳のときの作品で、《敗戦群像》と同じく裸体がもみ合い、いがみ合う群像表現。時あたかもバブル前夜、仮そめの平和を謳歌していた時代に、冷戦集結とともにタガが外れ、まさに「悪のボルテージが上昇」し続ける現在を予言するような絵を描いていたのだ。その197×333cmの大作を、平川は原寸大の黒一色で再現してみせた。黒一色といっても微妙な明度や艶の違いによりかろうじてなにが描かれているかが識別できる。まるで「悪のボルテージ」を強調するかのような、あるいは逆に抑え込むかのような黒だ。この黒と、藤田の戦争画に塗り込めた黒は果たして同質の黒か、考えてみなければならない。展示場所も、かつて福沢がこの作品を描いていた壁だという。
2018/11/14(村田真)