2019年08月01日号
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artscapeレビュー

伊奈英次「TWINS―都市と自然の相似形——」

2019年06月01日号

会期:2019/04/13~2019/05/25

ギャラリー・アートアンリミテッド[東京都]

伊奈英次は1970年代後半〜80年代にかけて、バブル景気の絶頂に向けて大きく変貌していく東京を、あくまでもニュートラルな視点で撮影した8×10インチ判のモノクローム作品「In Tokyo」シリーズを制作した。同シリーズから40年を経て、2020年の東京オリンピックにかけてインフラ整備が急速に進む東京を、あらためて大型センサーを備えたデジタルカメラで撮影した写真群が、今回出品された「In Tokyo Digital」である。それと並行して撮り進めていたのが、日本各地の海岸の「奇岩」をテーマにした「常世の岩」で、今回の展覧会では両シリーズをカップリングして展示していた。

都市の建築物と自然の景観とを「相似形」として捉える発想は、それほど新しいものとはいえない。アルベルト・レンガー=パッチュなど、1920〜30年代のドイツの写真家たちが唱えた「新即物主義」の作品にも、同じようなアプローチが見られる。だが実際に展示を見ると、ビル群と「奇岩」との形態の共通性とテクスチャーの異質性とが、実にダイナミックな視覚的効果を生み出していることに驚かされる。この展示では、デジタル画像と銀塩画像の比較も同時にもくろまれているのだが、現在のデジタル加工技術の進化によって、あまり違いが際立たなくなっていることも興味深かった。

「奇岩」の1枚にはやや特別な意味合いもある。伊奈は昨年5月、三重県熊野市の楯ヶ崎で7メートルの高さの崖から落下して重傷を負った。展示作品のなかには、落下事故前の1月にその崖から岩場を撮影していた写真もあった。撮り直しのために楯ヶ崎を再訪したときに事故に遭ったので、もう一度撮りにいく予定だという。「奇岩」も、「In Tokyo」のように繰り返して撮り続けることで新たな表情が見えてくるかもしれない。このシリーズは、また別な切り口でも展示できるのではないだろうか。

2019/05/25(土)(飯沢耕太郎)

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