artscapeレビュー

REVELATIONS

2019年06月01日号

会期:2019/05/23~2019/05/26

グラン・パレ[フランス・パリ]

19世紀後半のイギリスで興ったアーツ・アンド・クラフツ運動は、デザイナーのウィリアム・モリスの思想に端を発したものだったが、21世紀になり、新たな工芸運動がフランスで興り始めている。それがファインクラフト運動だ。ひと口に言えば「工芸作家によるアート運動」で、アーツ・アンド・クラフツ運動に対して、これは「アーツ・バイ・クラフツ運動」とでも言うべきか。

ファインクラフト運動を主導するのは、フランス工芸作家組合(Ateliers d’Art de France)である。これまでアーティストよりも低く見られてきた工芸作家の地位向上を目指し、工芸作家がアート界に参入し始めたのだ。そのサロン(展示・商談会)「REVELATIONS(レベラション)」が、2019年5月にフランス・パリで開催された。同展は2013年から隔年開催を続け、今年で4回目を迎える。出展者は33カ国、約500人、4日間で37,522人の来場者が集まり、いまやヨーロッパを中心に世界中の注目を集めるサロンに成長しつつある。同展がユニークなのは、狙うのがプロダクト市場ではなくあくまでアート市場である点だ。工芸作家が素材の持ち味を生かしながら、自身の持てる技を大いに発揮し、アートとして鑑賞に耐える作品を世に問う。アーツ・アンド・クラフツ運動の影響を受けたとされる、日本の民藝運動が提唱した「用の美」とは根本的にそこが違う。「用」は不要なのだ。主な顧客は個人のアートコレクターやギャラリーオーナー、美術館のキュレーターらである。

展示風景 グラン・パレ[撮影:下川一哉]

同展を取材すると、日本からは沖縄県石垣市の石垣焼窯元、茨城県結城市で結城紬の産地問屋を商う奧順といった工芸事業者が出展していたほか、フランスに在住する日本人工芸作家が数名出展していた。彼らからは同展について「工芸分野ではトップレベルのサロン」「最高級の手仕事を伝えるにはもっとも適した場」「文化レベルが非常に高いサロンなので、作品が売れるか売れないかよりも、作品をどう評価してくれるのかが重要」といった声が聞かれた。

しかし他国と比べると、日本国内での同展の認知度はまだ低いと感じる。会場中央には「バンケット」と呼ばれるエリアが敷かれ、カナダやチリ、インド、タイなど11の国や地域が参加し、それぞれを代表する工芸品が華やかに展示されていた。ここに「Japan」の存在がなかったことを非常に残念に感じたのである。日本は欧米諸国に比べると、アート市場の成熟度は低いが、工芸の熟練度は最高水準にあると日々の取材や支援活動、視察などで痛感する。だからこそ同展は日本の工芸作家や職人、事業者にとってはチャンスと映った。次回2021年の開催時に、もっと多くの日本人の活躍が見られることを期待したい。

石垣焼窯元 金子晴彦の出展作品《ブルーウェーブ そこにある記憶 Ⅳ》[撮影:下川一哉]

セラミックアーティスト、栗原香織の出展作品「ボタニカル ファイヤーワークス」と「花⇄果実」[撮影:下川一哉]

ガラス作家、前田恵里の出展作品「Extensions M」[撮影:下川一哉]

刺繍作家、杉浦今日子の出展作品《Sleeping Twins −2−》[撮影:杉浦岳史]

公式サイト:https://www.revelations-grandpalais.com/fr/

2019/05/24(金)、25(土)(杉江あこ)