artscapeレビュー

GRAPHIC TRIAL 2019 EXCITING

2019年06月01日号

会期:2019/04/13~2019/07/15

印刷博物館 P&Pギャラリー[東京都]

本展を観て痛感したのは、プリンティングディレクターという職能の重要性である。例えばグラフィックデザイナーがこういう表現をしたいと試みたとしても、彼ら自身がコントロールできるのは入稿データの作成までだ。印刷会社に入稿データを渡した途端、彼らは制作のバトンも渡さなければならない。印刷工場では製版、刷版、印刷、加工・製本という工程を経るが、そこでグラフィックデザイナーに代わって、技術的なサポートとディレクションを行なうのがプリンティングディレクターである。建築で言えば、建築家と現場監督の関係みたいなものか……。

第14回を迎える本展のテーマは「Exciting」。参加クリエイターはアートディレクターの葛西薫、アートディレクターのテセウス・チャン、グラフィックデザイナーの髙田唯、アートディレクターの山本暁の4人である。個々にプリンティングディレクターが一人ひとり付き、まさにクリエイターとプリンティングディレクターとの高度な掛け合いとも言えるような協働の過程と成果を見せてくれた。

展示風景 印刷博物館 P&Pギャラリー

葛西はそのまま「興奮」と題し、自分がかつて興奮したという中国での思い出の35mmネガフィルムの写真をB1サイズ5連のポスターに引き伸ばすトライアルを行なった。そのまま引き伸ばせば、当然、ボケた画像となる。そこで高解像度の写真ではないことを逆手にとり、スクリーン線数を極端に粗くし、さらにCMYKの各版を異なる線数にしたり、CMYKの4色に銀や金を混入したりして、見え方がどのように変わるのかを実験した。チャンは「Colour Noise」と題し、印刷適正のない不織布にどこまで鮮やかさを再現できるのか、カレイドインキや蛍光インキを刷るトライアルを行なった。髙田はモニター上で鮮やかに発色するRGBの青を印刷で再現できないかという思いに端を発し、「見えない印刷」と題して、ブラックライトで発光・発色する蛍光メジウムに着目。来場者が実際にポスターにブラックライトを当てると、色とりどりの蛍光色とともに詩が浮かび上がり、その場で詩も楽しめるというインスタレーションを展開した。山本は「オフセット印刷の不良」と題し、水濡れや凹凸のある紙への印刷、またインキが裏抜けした印刷、画像のネガとポジを重ね合わせた場合の印刷など、印刷にまつわる失敗やあり得ない実験を果敢に行ない、ユニークな表現を試みた。

展示風景 印刷博物館 P&Pギャラリー

このようにトライアル内容がどれも非常にマニアックであることに驚いた。それこそグラフィックデザイナーなど印刷に関わりのある職業でなければ一見理解しにくい内容かもしれない。しかしチラシや雑誌をはじめ、われわれの身の周りには印刷物が山のようにある。それらが実はプリンティングディレクターらによる、高度な技術者の賜物であることに気づく良い機会となるかもしれない。

公式サイト:https://www.toppan.co.jp/biz/gainfo/graphictrial/2019/

2019/05/29(水)(杉江あこ)

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