artscapeレビュー

ロロ「窓辺」 第2話『ホームシアター』

2020年06月01日号

会期:2020/05/22~2020/05/24

ロロによる連作短編通話劇「窓辺」の第2話は『ホームシアター』。編集者の羽柴夕(森本華)が自宅で仕事をしていると見知らぬ女性(島田桃子)からビデオ電話がかかってくる。春野紺と名乗る彼女は夕の高校時代の同級生だという。なかなか思い当たらない夕だったが、話しているうちにようやく彼女のことを思い出す。高校時代、夕が学校の自販機でカロリーメイトを買おうとして小銭が足りず、たまたま後ろにいて20円を借りた相手が紺だった。彼女は自分は実は半年前に死んでしまっていて、いまこうして話しているのはただの映像、生きていた頃の記憶の蓄積でできた人工知能なのだと言い出す。だから、もう返してもらえない20円の代わりに、自分が秋乃から借りたままの消しゴムを返してほしいのだと──。

第1話『ちかくに2つのたのしい窓』と「秋乃」という名前でつながりつつ「リアル」だった第1話から一転、ファンタジーともSFとも(ホラーとも?)つかない超現実的な設定が(しかしさらりと)盛り込まれた第2話。黒地に「ホームシアター」と白い文字が浮かぶ画面越しに「おーい、聞こえますかー」と声が聞こえるオープニングはビデオ通話というよりは映像作品のそれだ。

紺は人工知能の自分には夕から見える画面が世界の全部だと言い、夕の画面の外にあるものを知りたがる。コンセント、壁掛け時計、カレンダーと数え上げていく夕。だが、たとえ死んでいなかったとしても、人は一緒にいる時間の外側の世界を共有することはできない。夕は紺自身に知らされるまで彼女の死を知らなかった。紺は夕が結婚していることを知らなかった。離れている人はそこには「いない」。

だが、いまそこにいなかったとしても、紺の存在がなかったことになるわけではない。夕はかつてカロリーメイトはチョコ味しか食べなかったのだが、紺とのやりとりがきっかけでフルーツ味を食べるようになる。それはいままさに夕がパソコンの前でかじっているものだ。紺の存在は夕が手にするカロリーメイトのなかにある。それどころか、カロリーメイトのそのフルーツ味こそがまさに、紺の呼び声を夕に届かせたものかもしれない。たとえ覚えていなかったとしても、いまの夕を形づくるものの一部は紺がもたらしたものだ。

「怖がらないで、バーチャルYouTuberみたいなものだから」という紺の存在はたしかにフィクションのキャラクターめいたところがあり、そう考えるといかにもフィクション然としたオープニングの演出もうなずける。「おーい」と聞こえてくるのはフィクションからの呼び声でもあったのだ。タイトルバックに声だけが聞こえ、夕の姿が映し出されるまでの短い間、それは観客の私への呼びかけのように響く。

誰かとの、何かとの出会いが人を変え、形づくっていく。それはロロ/三浦直之が繰り返し描き続けてきたこの世の理だ。だから、エンディングで呼びかけが繰り返されるのもまた必然だろう。渡されたバトンは次へとつながっていく。誰かから受け取ったものはまた別の誰かへ、別のかたちで手渡される。フィクションから受け取ったものはまた別のフィクションへと生まれ変わる。そういえば、紺が数え上げるもののなかには『ブレードランナー』や『her』といったタイトルもあった。呼びかける声はそうしてどこまでも連なっていく。夕と秋乃はどのようにつながるのだろうか。「窓辺」第3話は6月中旬の上演が予定されている。


公式サイト:http://loloweb.jp/
ロロ『窓辺』:https://note.com/llo88oll/n/nb7179ad5e3a5


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