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第9回新鋭作家展 ざらざらの実話

2020年07月01日号

会期:2020/06/09~2020/08/30

川口市立アートギャラリー・アトリア[埼玉県]

公募で選んだ2作家による展示。この公募展、前にも書いたような気がするけど、テーマを川口に関係づけたり、制作過程で住民とコラボレーションしたりワークショップを開いたりするなど、なんらかのかたちで川口市と関わることを求められるのだ。そのため選考は前年に行なわれ、学芸員とともに1年かけて地域と関わりながらつくり上げていくめんどくさい、いや、テマヒマかけた展覧会なのだ(今年は4月からの開催予定で展示も終わっていたが、公開は2カ月遅れとなった)。今回選ばれたのは画家の遠藤夏香と彫刻家 木村剛士。

遠藤は住民に聞いた川口についての話をまとめ、巨大絵画を制作。壁に書きつけられた住民の話が興味深い。「鋳物工場がだんだんなくなって、マンションとかになっていって、いまは住む町になりましたよね。あーなんか普通の街になってきたなって思うことはありますけど、便利になってきれいになって、ね」「終電まで都内で働いてさ、帰ろうとすると電車が赤羽までしかないのよ。それでタクシーのっかろかななんて見てみるとすーごい行列なわけ。こりゃだめだっつって歩くのよ、夜中の荒川大橋を。僕だけじゃなかったよ、ほかにもおんなじで歩いてる人がいっぱいいた」「あ、道路が茶色かったですよ。なんかこうカレー粉みたいんが固まってるの。あれって鋳物工場の周りだよね。なんか鉄の型、みたいなやつ。カレー粉に似てるんですよ」

木村は当初、川口名物の鋳物を3Dプリンターで再現するプランだったような気がするが、調査を進めていくうちに工場を1軒分、内と外を裏返して再現することになった。展示室に1軒の小さな工場を建てたのだが、外壁に道具が置かれた机や椅子、棚がへばりつき、内側には砂が敷かれて窓が開いている。鋳物が雌型と雄型で反転するように、工場も内外を反転させたという。ぱっと見、内と外との違いがわかりにくいのが残念。両者ともアートとしてのインパクトはいまひとつだが、丁寧につくり込んでいて好感が持てる。住民の人にもぜひ見てもらいたい。

2020/06/10(水)(村田真)

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