artscapeレビュー
2020年07月01日号のレビュー/プレビュー
幻想の銀河 山本基×土屋仁応
会期:2020/06/02~2020/08/02
ザ・ギンザ スペース[東京都]
塩で床に編み目を紡いでいく山本基と、鹿やユニコーンのような動物をモチーフにする木彫の土屋仁応による初のコラボレーション。どうなんだろ、この組み合わせは? 山本は銀河のような、というより泡立つ鳴門の渦のようなスパイラルを床いっぱいに描き出し、その上に土屋の7体の鹿の木彫を配置している。それはそれで「詩情あふれる」かもしれないが、直前に見たサンドラ・シントのウォール・ドローイングと同じく、安っぽい詩情に堕してないか。抽象と具象の組み合わせは難しく、この場合、土屋作品は映えるけど、山本作品は台無しになりかねない。
2020/06/05(金)(村田真)
「コズミック・ガーデン」サンドラ・シント展
会期:2020/02/11~2020/07/31
銀座メゾンエルメスフォーラム[東京都]
コロナのせいか、エルメスの店舗内には入れてもらえず、奥のエレベーターから直接8階へ。右の大きな部屋には何種類かのブルーグレーに塗り分けられた仮設壁を奥まで立て、その表面に天体を思わせる無数の白い点をちりばめ、ところどころに橋、ブランコ、梯子のような図を描いている。左の部屋に移ると、星のような白い点が放射状になり、雪の結晶に化けていく。点や結晶などの抽象形態だけならよかったのに、橋やブランコみたいな具象的な形が現われたとたん、ロマンチックなイラストに見えてしまい興ざめする。
一方、感心したのは、絵具の垂れた跡が見つからないこと。これは仮設壁を床に寝かせて描いたからなのか、でもそれにしては壁面の継ぎ目が見えないし、床置きでこれだけの点を打つのは途方もない労力がいるはず。まあ立てて描いても大変だけどね。いずれにせよ見た目以上に大変な作業だろうと想像する。そんな内部事情が気になって仕方がない。
2020/06/05(金)(村田真)
天覧美術/ART with Emperor
会期:2020/06/02~2020/06/27
eitoeiko[東京都]
先週「桜を見る会」で再開したeitoeiko、今回は「天覧美術」だ。もうコワイものなしだな。天覧試合は天皇がご覧になる試合のことだが、「天覧美術」とは天皇を見る美術のことらしい。企画したのは「桜を見る会」にも出品したアーティストの岡本光博で、彼の運営する京都の画廊KUNST ARZTからの巡回。出品は木村了子、小泉明郎、鴫剛、藤井健仁、それに岡本の5人。ここで「おや?」っと思うのは、80年代に活躍したスーパーリアリズムの画家、鴫剛の名前が入っていること。どうやら岡本の大学時代の師匠らしい。作品も「桜を見る会」に出してもおかしくない《ピンクの国会議事堂》など、リアリズムそのままに風刺をきかせている。鴫が岡本に影響を与えたのか、岡本が鴫に刺激を与えたのか。
彫刻家の藤井健仁は、昭和天皇と麻原彰晃の顔面彫刻を鉄でつくっている。どちらも「鉄面皮」ということだろうか。実物より黒くて大きく、デスマスクのように不気味だ。それにしても「天覧」というとアキヒトでもナルヒトでもなく、ヒロヒトを思い浮かべるのはぼくらの世代だけだろうか。天覧試合といえばやっぱり長嶋だもんね。新日本画の木村了子は、アイドルとしての平成天皇の肖像を御真影のごとく壁の高い位置に掲げたほか、菊花と肛門様をダブらせたヤバい作品も出品。これは案内状にもなっている。
首謀者の岡本は何点も出品。アングルの《泉》の女性の胸に2枚の金杯を当てた《キンぱい》、信楽焼のタヌキのキンタマのかけらを集めてサッカーボール状に金継した《キンつぎ》は、天皇を象徴する金に下ネタを掛けた「不敬美術」。また、鳥かごの中に小鳥の彫刻を置いた「表現の自由の机」シリーズも2点あるが(1点は金色)、これは慰安婦問題を象徴する例の少女像の肩に止まった小鳥を3Dスキャンで型取りしたものだという。その型取りしている岡本の姿を捉えた写真も鳥かごの中に収められている。ここには天皇の戦争責任や「表現の不自由」など重い問題が見え隠れするが、なにより深刻ぶらずに笑えるのがステキだ。
関連レビュー
天覧美術/ART with Emperor|高嶋慈:artscapeレビュー(2020年06月15日号)
2020/06/05(金)(村田真)
大槻香奈写真展「2020年 東京観光」
会期:2020/05/29~2020/06/07
神保町画廊[東京都]
新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、多くの美術館、ギャラリーでの展示が休止、あるいは中止になっていた。だが、緊急事態宣言の解除を受けて、少しずつ再開するところも増えてきている。千代田区の神保町画廊は、東京では最も早く活動を開始したギャラリーのひとつである。そこで開催された大槻香奈の「2020年 東京観光」展は、この時期にふさわしい内容の展示だった。
1984年、京都府出身の大槻は絵画と写真の両方で作品を発表しているアーティストである。今回の個展は2019年に同じスペースで開催した「人形の住む家」の続編というべきシリーズで、前回にも登場した彼女の二人の妹たちをフィルムカメラで撮影している。撮影は3月中旬におこなわれ、関西から上京してきた妹たちはマスクをつけて、浅草、池袋、銀座を歩き回った。何気なく撮影されたスナップショットのようでいて、妹たちには「互いに隠しきれない緊張感」が漂っており、その周囲には「冷静さを装いながらも落ち着かない風景」が広がっている。この「2020年の東京観光写真」を、もう少し時間を経て見直せば、「コロナ時代」の空気感をよく伝える私的なドキュメントとしての意味も持つのではないだろうか。
A4判に引き伸ばされたプリントのほかに、チェキ(インスタント写真)のプリンターで出力した100枚の写真も並んでいた。ややチープな見かけだが、こちらのほうが「現在を過去化する」という写真の機能がうまく発揮されているように感じる。マスクをした少女のイラストのポストカードも販売されていた。写真とイラストを交互に見せるという展示構成も考えられそうだ。
2020/06/07(日)(飯沢耕太郎)
第9回新鋭作家展 ざらざらの実話
会期:2020/06/09~2020/08/30
川口市立アートギャラリー・アトリア[埼玉県]
公募で選んだ2作家による展示。この公募展、前にも書いたような気がするけど、テーマを川口に関係づけたり、制作過程で住民とコラボレーションしたりワークショップを開いたりするなど、なんらかのかたちで川口市と関わることを求められるのだ。そのため選考は前年に行なわれ、学芸員とともに1年かけて地域と関わりながらつくり上げていくめんどくさい、いや、テマヒマかけた展覧会なのだ(今年は4月からの開催予定で展示も終わっていたが、公開は2カ月遅れとなった)。今回選ばれたのは画家の遠藤夏香と彫刻家 木村剛士。
遠藤は住民に聞いた川口についての話をまとめ、巨大絵画を制作。壁に書きつけられた住民の話が興味深い。「鋳物工場がだんだんなくなって、マンションとかになっていって、いまは住む町になりましたよね。あーなんか普通の街になってきたなって思うことはありますけど、便利になってきれいになって、ね」「終電まで都内で働いてさ、帰ろうとすると電車が赤羽までしかないのよ。それでタクシーのっかろかななんて見てみるとすーごい行列なわけ。こりゃだめだっつって歩くのよ、夜中の荒川大橋を。僕だけじゃなかったよ、ほかにもおんなじで歩いてる人がいっぱいいた」「あ、道路が茶色かったですよ。なんかこうカレー粉みたいんが固まってるの。あれって鋳物工場の周りだよね。なんか鉄の型、みたいなやつ。カレー粉に似てるんですよ」
木村は当初、川口名物の鋳物を3Dプリンターで再現するプランだったような気がするが、調査を進めていくうちに工場を1軒分、内と外を裏返して再現することになった。展示室に1軒の小さな工場を建てたのだが、外壁に道具が置かれた机や椅子、棚がへばりつき、内側には砂が敷かれて窓が開いている。鋳物が雌型と雄型で反転するように、工場も内外を反転させたという。ぱっと見、内と外との違いがわかりにくいのが残念。両者ともアートとしてのインパクトはいまひとつだが、丁寧につくり込んでいて好感が持てる。住民の人にもぜひ見てもらいたい。
2020/06/10(水)(村田真)