artscapeレビュー

ANTEROOM TRANSMISSION vol.1 ─変容する社会の肖像

2021年07月15日号

会期:2021/04/28~2021/06/30

ホテル アンテルーム 京都|GALLERY 9.5[京都府]

アートホテル、アンテルーム京都の開業10周年企画として始まった、若手作家育成プロジェクト「ANTEROOM TRANSMISSION」の第一弾。「変容する社会の肖像」と副題の付いた本展は、作品を同時代の社会へのメッセージとして伝えることを企図する。現役大学生と卒業後3年以内の若手作家7名が選抜された。中心軸として浮上するのは、とりわけコロナ下で浮上した、デジタル情報時代の視覚メディアと私たちの身体、知覚、物質、社会の関係をめぐる問いだ。

津村侑希は、Googleストリートビューや航空写真などネット上のデジタル画像を素に絵画を制作する。コーカサス地方の教会の壁を描いた出品作では、実物の小枝や石が床に置かれ、描かれた枝に混じって画面に貼り付けられ、ライトが厳かに照らす。質量を持たないデータを触知可能なものとして再物質化し、聖性を与えようとするかのようだ。



津村侑希 左より《世界地図》《アルメニア教会の壁》[撮影:大澤一太]


大澤一太と六根由里香は、デジタル画像の物質への置換やトレースといった操作を通して、情報の複製と欠落、レイヤーとフレーム、具象と抽象の境界といった主題を仮設的な場において問う。小田蒼太は、コロナ禍と環境汚染問題の相関関係について、「透明」「可視性」を軸に、合わせ鏡のように提示する。コロナ禍の副産物として大気汚染が緩和され、見張らせるようになったヒマラヤ山脈の写真。その前に置かれた立方体のキューブには、ウィルスに汚染された肺のイメージが閉じ込められている。キューブは、輪切り状に肺の断面を描いたアクリル板を重ねてできており、見る角度によって像と可視性の度合いが変化する。



小田蒼太《Coexisting with COVID-19》[撮影:大澤一太]


光と視覚それ自体について、複数のメタ的な仕掛けとともに省察して秀逸だったのが、佐藤瞭太郎のCG映像作品《Blue Light》。リアルの展示会場と映像内で反復されるCG世界、映像のなかのPC画面など複数の入れ子構造や、出口のない迷宮状態とリンクするループ構造、鑑賞者自身を檻の中に閉じ込める展示構造といったメタ的な仕掛けが重層的に交錯する。タイトルには、私たちを魅了して捉えるPCやスマホ、タブレットの画面が発する光と、光に集まる生物の習性を利用した殺虫灯の二重の意味がかけられている。バーチャルな映像への没入と身体の忘却、光の刺激を求めて加速する眼球。その欲望は世界中に張り巡らされた監視カメラやGoogleストリートビューを暗示し、私たちの身体はスクリーンの影絵を見つめ続ける洞窟内の囚人と化す。

鑑賞を終えて「展示スペース=檻」から出た私たちは、一時的な束縛から解放される。だが、その外に広がる、視覚情報メディアに包囲された日常風景は、一変して見えるだろう。



佐藤瞭太郎《Blue Light》[撮影:大澤一太]


2021/06/11(金)(高嶋慈)