artscapeレビュー
ファッション イン ジャパン 1945-2020 ─流行と社会
2021年07月15日号
会期:2021/06/09~2021/09/06(※)
国立新美術館 企画展示室1E[東京都]
ファッションというと、「服装」を意味する言葉として定着しているが、もともとの意味は服装に限らず広い意味での「流行」である。その点で本展は洋服を基軸としながら、日本の戦後流行史や社会史にも迫る充実した内容だった。当時の世相や流行した雑誌、広告、映像、音楽なども含めて展示していたからだ。まずプロローグとして1920年代-1945年があり、国民服ともんぺが展示されていてのっけから目を引く。そして1章は終戦直後の1945-1950年代、2章は1960年代と、以後、10年単位で章を展開していく。したがってどの世代が観覧しても、必ずどこかの章で懐かしさを覚えたり、当時の自分を思い出したりするのではないかと思えた。まさに服装と流行と社会とは切っても切れない関係にあることを痛感した。
ちなみに団塊ジュニア世代の私は1980年代から懐かしさがじわじわと高まり、1990年代にその感情が爆発した。「あぁ、こんなブランドが流行ったよね」とか「こんな格好をした人がいたよね」という言葉が口をついて出た。そして当時、自分が何歳頃で、どんな生活を送っていたのかということまでも蘇ってきたのである。こうした反応は私だけではなかったようで、周囲からも同様に共感や感嘆の言葉が聞こえた。つまりファッションは、個々人が人生を振り返ることのできる強いフックとなるのだ。
考えてみれば、欧米諸国やその他の国々に比べると、日本の洋服史はまだ浅い。庶民全般に本格的に洋服が根づいたのが戦後からとすると、100年にも満たないからだ。そのわずか100年足らずの間に日本の洋服史は変幻自在な道を辿った。当初は欧米の服装をそのまま受け入れつつも、次第に独自路線を歩んでいく。歴史がないからこそ、自由に羽ばたけたのだ。当然、社会状況からも大きな影響を受けてきた。そんな日本のファッションのガラパゴス化が、2000年代以降には逆に世界から評価される結果にもなる。ガラパゴス化への原動力は何かというと、結局、日本人はおしゃれが好きで、創意工夫するのが好きということに尽きるのではないか。それはファッションデザイナーや業界の人々だけに限らない。庶民一人ひとりが自分らしい服装を希求しているのだ。だから戦中のもんぺにも、戦後まもなくの洋裁ブームにも、庶民が楽しんだおしゃれがあった。さて、本展を観て、あなたは何に懐かしさを覚えるだろうか。
公式サイト:https://fij2020.jp
2021/06/08(火)(杉江あこ)