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artscapeレビュー

益子と笠間の建築

2021年09月15日号

[栃木県]

隈研吾の弟子筋にあたるMOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIOによる《道の駅ましこ》(2016)は、木造の集成材による大スパン建築を実現し、ダイナミックな空間構造をもつ。さすが日本建築学会賞(作品)(2020)とJIA日本建築大賞(2017)の両方に選ばれた作品である。そして商業施設としても楽しい。道の駅という難しいビルディングタイプを見事に「建築」化している。



《道の駅ましこ》



《道の駅ましこ》


また内藤廣の設計による《フォレスト益子》(2002)は、一般人もすぐにわかるような隈研吾的なデザインの署名性はないが、専門家には了解できる湾曲するかたちと構造の調和が素晴らしい。また、それを引き立てる外構のランドスケープ・デザインも巧みである。



《フォレスト益子》


伊東豊雄の《笠間の家》(1981)は、陶芸家の里中英人のアトリエ兼住居として建てられたが、施主が亡くなった後、笠間市に寄贈され、改修を経て、一般見学できるようになった。ちなみに、笠間と益子は陶芸のまちである。現在、この建築はギャラリーや創作工房として利用できるほか、カフェとして簡単な飲食も提供していた。正直、隈建築とは対照的にインスタ映えしない外観だし(木の影が白い外壁に重なる場面はあるが)、小さい写真だと空間の良さはあまり伝わりにくい。だが、これは実際に内部を体験しないとわからない超名作だった。湾曲する居間のヴォリュームは、《中野本町の家》(1976)を彷彿させるが、外にも開いている。

まず圧倒的なデザインの密度によって、複雑なかたちと空間が設計されている。当時の伊東は40歳前後だが、まだ公共建築の仕事は手がけていない。それゆえか、膨大なエネルギーを住宅につぎ込んでいる。歩きまわると、絶妙なデザインで組み込まれた書斎の本棚、作り付けの机、寝室のクローゼットに隠されたトイレなど、さまざまな場面に遭遇するだろう。さらに《笠間の家》では、大橋晃朗による個性的な家具が彩りを添える。まるで公共建築に挑むかのようなデザインの量が凝縮され、豊かな空間が出現した。改めて、近年こうしたかたちで勝負する建築が減っているかもしれないと思う。外に開く、コミュニティなどが主要なキーワードとなり、複雑なデザインの操作が行なわれていないからだ。われわれはポストモダンを過小評価するあまり、かたちと空間の強度と可能性を忘れているのではないか。



《笠間の家》



《笠間の家》



《笠間の家》内のギャラリー



《笠間の家》内のリビング

2021/08/15(日)(五十嵐太郎)

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