2024年03月01日号
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artscapeレビュー

丹下健三 戦前からオリンピック・万博まで 1938〜1970

2021年09月15日号

会期:2021/07/21~2021/10/10

文化庁国立近現代建築資料館[東京都]

今年、国の重要文化財に指定された国立代々木競技場。1964年東京オリンピックでは水泳とバスケットボール会場に使用され、東京2020オリンピック・パラリンピックではハンドボールと車いすラグビー、バドミントン会場に使用された。国立競技場は老朽化により建て直しを余儀なくされたが、国立代々木競技場は耐震改修工事などを経て、なお生きることとなった。この両者の運命の違いは、端的に言って、未来に残したい建築かどうかということだろう。もはや言うまでもなく、丹下健三の代表作のひとつである国立代々木競技場は、前例のない「高張力による吊り屋根方式」という構造を駆使した巴形の屋根が特徴である。意匠的にも技術的にももっとも優れた戦後モダニズム建築とされ、いまもその威光は衰えることがない。


国立屋内総合競技場(模型)1/600(1963)秩父宮記念スポーツ博物館蔵


本展はそんな丹下健三の前半生を回顧・検証する展覧会である。今年、東京でオリンピック・パラリンピックが行なわれ、4年後の2025年には大阪で再び万博が行なわれる。その流れは1964年東京オリンピックと1970年大阪万博が開催された高度経済成長期の焼き直しとも言われている。かつて双方で活躍したのが丹下健三であることを踏まえると、いま、彼を見直す良い機会なのかもしれない。

本展は6章からなり、「戦争と平和」から始まる。なぜなら丹下健三は「戦没者といかに向き合うか」を設計上の重要なテーマと見做していたからだ。これも丹下健三の代表作のひとつである広島平和記念公園および記念館の模型や図面、写真を大々的に展示し、戦争を生き延びた人々と戦争で亡くなった人々とを結びつける建築を模索し続けたことが紹介される。また次章の「近代と伝統」では、若かりし頃の丹下健三がル・コルビュジエに傾倒したことが伺える卒業設計「芸術の館」や、ピロティ形式の2階建て木造住宅「成城の自邸」などが紹介される。国立代々木競技場や大阪万博の基幹施設マスタープランは、言わば成熟期の仕事だ。それ以前に丹下健三が何を大切にして建築家を志し、どう模索したのかという部分に触れられたのは貴重な機会だった。おそらく戦中戦後を生きた建築家にしか、「戦没者といかに向き合うか」というテーマに至ることはできないだろう。そこに力強さがあるし、欧州の近代建築の要素を取り入れながらも日本の伝統建築の美を失わなかった所以のようにも思う。国立代々木競技場の圧倒的な美しさは、丹下健三をはじめ建設関係者たちの果敢な挑戦によって実現したものだ。それは戦後復興の象徴であるからこそ、尊く映る。


展示風景 文化庁国立近現代建築資料館


芸術の館(外観透視図)(1938)東京大学大学院工学系研究科建築学専攻蔵




公式サイト:https://tange2021.go.jp/ja/

2021/09/01(水)(杉江あこ)

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