artscapeレビュー
秋田(角館、大曲、横手、湯沢)の建築群
2021年09月15日号
[秋田県]
およそ20年以上ぶりに秋田の角館を訪れた。武家屋敷の雰囲気が残る町並みに、大江宏によるポストモダン、いや正確に言うならば、異なる時代と地域の様式を混在させたような《仙北市立角館町平福記念美術館》(1988)や《仙北市立角館樺細工伝承館》(1978)はあらためて不思議な組み合わせである。力作(特にイスラム風にも見える前者)であることは間違いない。だが、現代の発火しやすいSNS社会なら、これらは炎上する公共建築になったかもしれないと思う。ともあれ、かたちのデザインが輝いていた時代の建築である。
また《角館歴史村・青柳家》展示施設では、『解体新書』の人体解剖図を描いた画家、小田野直武が、角館の武士だったことを紹介していた。なお、『解体新書』の扉絵に西洋建築が入っているが、日本に伝わった最初期の古典主義のイメージだろう。昭和初期の《旧石黒(恵)家》(1935)も、和洋折衷のデザインが見応えがある。こうした古風でありながら、新しいものを取り入れた態度は、大江の建築と重なるかもしれない。
鈴木エドワードによる《大曲駅》(1997)を見てから、《花火伝統文化継承資料館 はなび・アム》(2018)を訪問した。日本一を競う花火の展示施設であり、内容も悪くないのだが、建築のデザインが酷すぎる。これでは、花火に失礼だろう。気合いの入った花火職人の映像を見ると、東京2020オリンピックの開会式で日本製の花火を使わなかったことも同情する。
横手市の《秋田県立近代美術館》(1994)は、巨大ヴォリュームを持ち上げる、ど派手な外観に驚く。が、それ以上に連結するエンターテイメント施設群や飲食エリアを含む、秋田ふるさと村のプログラム構成がなんともシュールである。
湯沢市では、まだ見ていなかった東京から移築した白井晟一の《試作小住宅》(1953)を探した。パソコンでサムネイル的に小さい画像で見ると、普通の切妻屋根の家屋とあまり変わらないようにも見えるが、ようやく実物を発見すると、絶妙のサイズとプロポーション感覚で舌をまく。また今回は雪に埋もれていない状態の《四同舎(旧湯沢酒造会館)》(1959)も確認することができた。なんとか保存されており、古びてはいるが、クラシックなデザインの感覚をもち、背筋が伸びるような建築である。
2021/08/07(土)(五十嵐太郎)