artscapeレビュー
愛媛(宇和島ほか)の建築
2021年09月15日号
[愛媛県]
宇和島市の建築めぐりを行なった。《宇和島城》(1601)は復元ではなく、現存する17世紀の天守であり、三層の屋根や玄関に懸魚付きの唐破風や千鳥破風を散りばめ、優美な姿をもつ。ただし、あまり大きくないことと、樹木が成長しており、下方からはあまり見えない。また登る途中の石垣も、夏は植物で覆われてしまう。《城山郷土館》(1966)は、宇和島藩の19世紀の武器庫を移築保存したものを再利用している。《宇和島市立歴史資料館》(1992)も、古い建築のリノベーションだ。擬洋風の《宇和島警察署》(1884)が1950年代に移築され、1990年までは町役場として使われた後、再移築されたものである。また石垣のモチーフを組み込み、1974年にオープンした《宇和島市立伊達博物館》(1974)は、伊達家の史料などを収蔵し、天赦園に隣接して建つ。しかし、老朽化に伴い、建て替えを計画しており、プロポーザル・コンペによって隈研吾が設計者に選ばれた。一番新しい昭和の建築が解体の対象となるのは皮肉だが、これを契機に各館のコレクションを効果的に再編できるのではないかと感じた。
宇和島といえば、大竹伸朗のはずだが、どこに行っても彼の作品に遭遇しない。ようやく出会ったのは、駅前の《宇和島市学習交流センター パフィオうわじま》(2019)の図書館だった。ここでは大竹に関連する展示、彼の蔵書コーナーを設けているほか、1階ではグッズの販売が行なわれている。また同施設のホールの緞帳は、大竹が制作したものだ。
また愛媛の建築家、武智和臣が、アーティスト、ケース・オーウェンスのアトリエを改修し、昨年オープンした宇和町の宿泊施設《atelier O-HUIS》(2020)を見学した。斜めに配された石積みの壁や大きな鉄の扉が重厚である。200㎡の客室、天窓のあるベッド、露天風呂などがつく。越後妻有トリエンナーレにも参加したオランダ人の作家であり、もともとは1990年代に建てたものらしい。外は田園風景が広がり、庭園は石の彫刻、屋内は絵画や陶芸などのアートに囲まれ、1日1組限定の一棟貸しで、最低でも24万円台からである(食事はシェフを呼ぶ)。ホテルというよりも、別荘を借りる感覚だ。かなりの高価格だが、大衆を相手にしているわけでなく、こうした豊かな空間を求めている層がちゃんといるという。新しいアート・ツーリズムが生まれている。
2021/07/22(木)(五十嵐太郎)