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artscapeレビュー

山形(金山町、新庄市、銀山温泉)の建築群

2021年09月15日号

[山形県]

山形県の金山町を歩く。地域住宅計画、街並み景観条例、1978年から続く住宅建築コンクールなど、長い時間をかけた努力の甲斐あって、なるほど街並みの景観がよく揃う。金山スタイルというべき意匠も確立されている。林寛治、片山和俊らの東京藝大系の建築家が関与し、明治時代の土蔵をカフェやギャラリーに転用した《街角交流施設 マルコの蔵》(2012)と広場や、《街並み交流サロン ぽすと》(1936年竣工の旧郵便局)などのリノベーション(2000)、あるいはきごころ橋、小学校、役場などの現代建築を手がけ、ただ古建築を保存するだけでなく、新旧の魅力を融合した。また金山スタイルではないが、やはり藝大出身の益子義弘による森林に囲まれた火葬場が素晴らしい。



《街角交流施設 マルコの蔵》



《街並み交流サロン ぽすと》



益子義弘による火葬場


新庄市では、急勾配のとんがり屋根をもつ《雪の里情報館》の展示棟(旧農林省積雪地方農村経済調査所庁舎、1937)に立ち寄った。これは考現学で有名な今和次郎が設計した建築である。彼は青森県・弘前の出身だから、大雪がもたらす状況をよく知っていたはずである。もともとは雪害対策を調査するために設置された建築だが、第5展示室ではシャルロット・ペリアン訪問の展示があり、彼女がとてもお茶目なキャラクターだったエピソードを伝える。



《雪の里情報館》の展示棟(旧農林省積雪地方農村経済調査所庁舎)


また《新庄市エコロジーガーデン「原蚕の杜」》(2002)では、工学院大学の富永祥子研究室ほかによる1930年代の蚕糸試験場のリノベーションを見学した。外観は当初の状態に復元し、2階は見えない部分での耐震補強を施し、2021年の初頭に3棟の改修工事が完了している。旧第4蚕室は、創造交流館として再生し、とても良い雰囲気の「おやさいcafé AOMUSHI」、スタジオ、オフィスなどが入る。



富永祥子研究室ほかによる蚕糸試験場のリノベーション


銀山温泉は、エリアの手前で自動車を降りて、歩いていくことになるが、うねる細い川の両岸に宿がぎっしりと並ぶ風景が印象的だった。大正時代に建設された《能登屋旅館》(1921)など、よくできた和洋折衷が興味深い。一方、隈研吾による《藤屋》(2006)は、外に屋号すらも示さない、すっきりとしたミニマルなデザインや繊細なルーバーによって、賑やかな宿が多い環境において逆に存在感を示していた。



《能登屋旅館》



左が隈研吾の《藤屋》

2021/08/08(日)(五十嵐太郎)

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