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福田美蘭展 千葉市美コレクション遊覧

2021年11月01日号

会期:2021/10/02~2021/12/19

千葉市美術館[千葉県]

福田美蘭というと西洋絵画を元ネタにした作品が多いが、今回はタイトルどおり、千葉市美術館の日本美術コレクションに触発された新作を中心とする個展。しかも福田が引用した千葉市美のオリジナル作品もセットで展示されるので、福田と日本の絵師たちとのコラボレーションともいえる。旧作も含まれるが、すべて日本美術の枠に収まっている。

たとえば《二代目市川団十郎の虎退治》は、鳥居清倍の同題の丹絵を部分ごとにバラして再構成したもので、団十郎の身体と虎の手足がぐちゃぐちゃに絡まって一体化している。これは現在の新型コロナウイルスとの戦いとダブらせたもので、もはや単純な勝ち負けではなく、敵との共存も考えなくてはならない新しい世界観を示しているというのだ。あ、ちなみに今回は福田の全作品に本人の解説がついているので、それにのっとって解釈してます。《三十六歌仙 紀友則》も同様、鈴木春信による同題の浮世絵に想を得て、雪を表わす「きめだし」(空押しで画面に凹凸をつくる技法)を、新型コロナウイルスの飛沫拡散パターンに用いている。また、チラシにも使われている《風俗三十二相 けむさう 享和年間内室之風俗》は、煙を嫌がる女性を描いた月岡芳年の浮世絵に五輪模様の煙を描き加え、「オリンピックがけむたい」という国民感情を表わしたという。

相変わらずよく練られているなあと感心する反面、コロナやオリンピックなどいささかこじつけがましさが鼻につくし、しょせん時事ネタは時が経てば忘れられてしまうので、一過性のパロディ絵画に終わってしまうのではないかと懸念もする。しかもそれほど有名ではない千葉市美のコレクションを対象としているだけに、将来別の場所で展示したいという需要は生まれにくい。でも逆に、コロナ騒動や2度目の東京オリンピックの記憶が薄れたころ、2020-21年という特異な時代相が刻印されたこれらの作品には、解説込みで付加価値がつくかもしれない、とも思う。少なくともそれだけの技術的クオリティを備えた作品ではある。

時事ネタは別にして、ぼくが惹かれるのは西洋美術に強引なまでに接続した作品だ。たとえば《美南見十二候 九月》。鳥居清長の原画では3人の女性が平坦に描かれているが、福田は月明かりと行灯という2つの光源を意識して、思いっきり陰影を強調している。まるで狩野一信の《五百羅漢図》のような不気味さ。似たような例に、旧作の《三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛》と《三代目佐野川市松の祇園町の白人おなよ》がある。これは写楽の役者絵のポーズを現実の役者が演じているようにリアルに描いたもの。つまりフラットな浮世絵を肉づき豊かな西洋絵画に翻案しているのだ。これらは解説が不要でストレートに伝わってくる点でも評価したい。

もっと省エネでコスト・パフォーマンスが高いのは、やはり旧作の《慧可断臂図 折かわり絵(4枚組)》。雪舟の《慧可断臂図》をあれこれ折りたたんで、達磨を振り返らせたり、慧可の頭を真っ白にしたりして遊んでいるのだ。これは笑ってしまった。いきなり上から目線でいえば、「芸術としての芸術(art as art)」が絵画の理想とすれば、福田のそれは「芸術についての芸術(art about art)」だろう。でも、つまらない「芸術としての芸術」を見せられるくらいなら、笑える「芸術についての芸術」を選びたい。

2021/10/06(水)(村田真)

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