artscapeレビュー

ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展2023 ジャルディーニ会場

2023年09月01日号

[イタリア、ヴェネツィア]

各国のパビリオンが並ぶビエンナーレは国際情勢を反映する場だが、ロシアによるウクライナ侵攻が発生したことを受け、ロシア館は閉鎖されており、若手建築家のユニット、アレクサンドラ・コヴァレヴァと佐藤敬がリノベーションを手がけた空間を見ることができなかった。また2008年はロシア館の手前の道にウクライナの展示があったが、今回は別の場所で久しぶりに出現し、重い問いを投げかけている。さて、「未来の実験室」というテーマを受け、全体の傾向として、ジャルディーニ会場は、土や水、環境やリサイクル、アフリカに関わる展示が多い。また建築のプロジェクト紹介が少ないのも特徴だろう。両会場を通じて、アフリカ系のデイヴィッド・アジャイとフランシス・ケレ、中国のネリ&フーらは出品していたが、欧米のスターアーキテクトがほとんど不在だった。生涯功績による金獅子賞を受賞したナイジェリア人のデマス・ヌゥオコも、今回らしい選び方だが、決して有名ではない。したがって、空気を読まず(?)、堂々と国家の建築プロジェクトを展示したハンガリー館が、かえってユニークに感じられた(アルセナーレ会場では、中国館が上海のプロジェクト群を紹介)。



デイヴィッド・アジャイの模型(中央館)




生涯業績賞となったナイジェリアの建築家の展示(ジャルディーニ会場)




国家プロジェクトを紹介するハンガリー館


大西麻貴(o+h)らがキュレーションした日本館は、さわやかな印象だった。吉阪隆正が設計したパビリオンを読み解き、モノに生命を与えるプロセスを通じて、o+hの作品のテーマでもある「愛される建築」を掘り下げる試みである。これは建築そのものに向き合うことを意味しており、筆者が企画した「かたちが語るとき」展(2020-21)や「装飾をひもとく」展(2020-21)の視点からも、興味深い内容だった。



日本館のピロティを覗き込む


ちなみに、筆者も関わった日本館のキュレーターの選考は、そもそも毎回ディレクターやテーマがはっきりしない段階で始まるが、ほかの館との同時代性も感じた。例えば、パビリオン自体を題材とすること(スイス館、ドイツ館など)、有機体としての建築(ベルギー館)のほか、素材、リサイクル、記憶への関心、多様な構成メンバーなどである。



ベネズエラ館との壁を取り払ったスイス館


個人的には、オーストリア館が最高だった。前々から気になっていた、ビエンナーレの拡大と増殖による会場外の展示や開催期間における公園の占有に対し、パビリオンを街=市民に開くため、敷地の境界線をまたぐ橋を提案していたからである(最初は敷地の壁に出入口を設ける案だった)。しかし、当局から許可されず(そのやりとりも公開)、橋の建設が中断されたままになっていた。会場の隅に位置するオーストラリア館の場所を生かしたダイナミックなプロジェクトは、ヴェネツィア・ビエンナーレの制度に対する批判としても刺激的である。



塀を越える橋の模型(オーストリア館)



中断された橋の建設(オーストリア館)



ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展2023:https://www.labiennale.org/en
ヴェネチア・ビエンナーレ日本館:https://venezia-biennale-japan.jpf.go.jp/j/architecture/2023



関連レビュー

ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展2023 アルセナーレ会場ほか|五十嵐太郎:artscapeレビュー(2023年09月01日号)

2023/08/04(金)(五十嵐太郎)

2023年09月01日号の
artscapeレビュー