artscapeレビュー
建築・文化財博物館、ケ・ブランリ美術館、カルティエ財団現代美術館
2023年09月01日号
[フランス、パリ]
シャイヨー宮の一角にある建築・文化財博物館では、ノートルダム大聖堂とエッフェル塔に関連する小企画が行なわれていた。前者は言うまでもなく、2019年の衝撃的な火災によって大きなダメージを受けた際の調査報告書、修復の方法、焼けた細部、図面や模型などを展示する。火災の直後、世界各地の建築家から現代的なデザインによる大胆な提案も寄せられたが、結局、19世紀にヴィオレ・ル・デュクが修復したときの慣れ親しんだ姿に戻すことになった。ちなみに、中世の建築の断片を収集したこの博物館は、もともと彼が提案して誕生した施設だから、ふさわしい場所での展示だろう。なお、ノートルダム大聖堂の修復現場でも、仮囲いを使い、損傷の状況や過去の写真を紹介している。建築・文化財博物館の上階にある近現代建築のエリアでは、エッフェル没後100年を記念し、彼の仕事場、当時の万博の会場、塔の建設現場の映像、ほかの業績などをコンパクトに展示していた。また近くの窓から、セーヌ川を挟んで、正面にエッフェル塔が大きく見えることは、会場がシャイヨー宮だからこそ可能である。
トロカデロ庭園を経て、イエナ橋を渡って10年ぶりに再訪したケ・ブランリ美術館では、入口に『もののけ姫』の大きなタペストリーが飾られていた。これに合わせ、7月から8月にかけて、スタジオジブリの作品を上映するプログラムも企画されている。
ランドスケープのような空間に展開するコレクション展は、アフリカやアジアなど、地域ごとにエリアが分類されているが、ロフトのように少し高いレベルのエリアでは、二つの小さな企画展を開催していた。ひとつはアメリカ人女性画家の「アン・アイズナー」展である。彼女は人類学者の夫とともに20世紀半ばにコンゴに滞在し、観察や収集を行ない、現地の生活から創作のインスピレーションを受けた。作品数は少なかったが、抽象化された絵は素晴らしい。
もうひとつは、セネガル初代大統領レオポール・セダール・サンゴールが指導した文化行政の展示である。詩人としても活躍した彼は、フランスに留学した経歴をもち、ポンピドゥーらの政治家とも親交を結んだ。サンゴールは文化を重視し、世界初のアフリカ系のアート・フェスティバル、芸術学校や国立劇場の創設、複合文化施設の建設、ネグリチュード(黒人性の自覚を促す)運動などに取り組んでいる。なお、後半ではセダール的な枠組みを批判するアーティストの動きにも触れていた。ともあれ、国立の博物館がコレクションを維持するためにクラウドファンディングを必要としたり、美術作品を駐車場に保管させるような、日本の政治家に爪の垢を煎じて飲ませたい。
久しぶりに足を運んだカルティエ財団現代美術館は、ケ・ブランリ美術館と同様、ジャン・ヌーヴェルが手がけ、やはり大きなガラス面をもつ建築である。メンテナンスがちゃんとされているのか、ガラスの透過・反射の効果がまったく劣化していない。
企画としては、「ロン・ミュエク」展を開催していた。寡作のアーティストゆえに、頭蓋骨で部屋を埋めつくす《MASS》(2017)、巨大な赤ん坊《A GIRL》(2006)、ボートの男、3匹の犬などによって、彼の軌跡をたどることができる。なお、ミュエク展は、カルティエ財団現代美術館の石上純也展と同様、上海のパワーステーション・オブ・アート(PSA)に巡回するようだ(これも日本はスルー)。
「アン・アイズナー」展(ケ・ブランリ美術館):https://www.quaibranly.fr/en/exhibitions-and-events/at-the-museum/exhibitions/event-details/e/anne-eisner-1911-1967
「SENGHOR AND THE ARTS」展(ケ・ブランリ美術館):https://www.quaibranly.fr/en/exhibitions-and-events/at-the-museum/exhibitions/event-details/e/senghor-et-les-arts
「ロン・ミュエク」展(カルティエ財団現代美術館):https://www.fondationcartier.com/en/exhibitions/ron-mueck-2
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