artscapeレビュー
大駱駝艦・壺中天公演:村松卓矢『穴』
2009年08月01日号
会期:2009/07/01~2009/07/12
大駱駝艦・壺中天[東京都]
白塗りの若い裸体はダンサーというより異世界の怪物みたいで、村松卓矢はその怪物をゲーム的な「キャラ」として扱っているように見えた。タイトル通り、舞台の中央に穴が空いていて、ものやダンサーが入ったり出て来たりと作品構造はきわめてシンプル。冒頭、中堅ダンサー4人が横並びになって微動する。蟻地獄のような具合に、いずれ4人は穴に滑り込んでゆくのだけれど、その間に見せたこの微動は、ゲームのキャラがコントローラーからの指令を待っているときの反復動作のようだった。表現なき表情、ロボット的な風体はかわいく、しかも独特のリアリティを感じる。ただ動作がキャラ的に見えるという形式的なゲーム性もあるのだけれど、より重要なのはダンサーの動く動機にゲーム的な構造が含まれているところだ。例えば、後半で、若手8人ほどが踊る際、「シュッ」と息を小さく吐く合図をきっかけに「首を振る」などの単純な動作のヴァリエーションが展開される。普通ならば隠すはずの合図、それが響くたびに切り替わる動作、この指令と応答のセットによって、自己表現とは異なる何かが舞台上に生じていると見る者は感じる。指令と応答を繰り返す遊びは芸術的とは言い難いけれども、芸術的ではないからこそ今日的なリアリティがある。むしろ、こうした構造への探究から生まれるものの内にこそ未来の芸術の姿を見ることができるのではないだろうか。
2009/07/08(水)(木村覚)