artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
安藤忠雄展ー挑戦ー
会期:2017/09/27~2017/12/18
国立新美術館[東京都]
建築家・安藤忠雄の約半世紀におよぶ仕事を振り返る回顧展。導入部では通路状の細長い空間に《住吉の長屋》をはじめとする初期の住宅作品を並べ、突き当たりを左折して大きな展示空間に出ると、世界中に展開する代表作の図面やスケッチ、マケット、写真などを群島のように点在させている。細長いギャラリーを見てから大空間に出るという会場構成は、昨年の三宅一生展と基本的に同じだ。そういえば美術館は違うが、東京国立近代美術館の「日本の家」展も似たような構成だった。最近の流行なのか。余談だが、新美術館の近くの三宅一生がディレクターを務める21_21デザインサイトも安藤忠雄の設計。じつは21_21の裏に磯崎新アトリエがあり、磯崎はこの時期もう少し奥のミッドタウンの庭園で、アニッシュ・カプーアとコラボした巨大な風船のコンサートホール《アーク・ノヴァ》を膨らませていた。
さて、今日はプレス内覧会。大空間の中央にドームがあって、そのなかで直島のアートプロジェクトを紹介しているらしいが、安藤本人がこのドームの入口で解説することになっているため、内部に入れず。しばらく待ったが、「もうすぐ来ます」と最初にアナウンスがあってから本人が登場するまで30分くらいかかったか。スターだね。ともあれ、この直島のプロジェクトや、ヴェネツィアのパラッツォ・グラッシとプンタ・デラ・ドガーナの改装計画、中之島を中心とする都市再生プロジェクトなど見どころは多いが、全部省略して、野外展示場に実物大で再現した「光の教会」に触れておきたい。
建築展でいつも気になるのは、どれも設計図や模型、完成写真ばかりで実物が見られない、体験できないこと。そこに絵画や彫刻の展覧会との決定的な違いがあり、建築展がはらむ本来的な矛盾がある。逆に図面などから実物を想像するという建築展ならではの楽しみもあるのだが、先ほどの東近の「日本の家」展における《斎藤助教授の家》のように、最近は建物を原寸で再現する例が増えているのも事実。もちろん実物大で再現といってもせいぜい1軒だけだし、部分的に省略されているし、なにより建ってる場所や周囲の環境が決定的に異なるが、それでも建築内部を体験するには役立つ。問題は家1軒を建てるのだから金とテマヒマがかかること。コンクリートづくりの「光の教会」はじつに7000万円かかったという。本人いわく「厄介なことに、展示ではなく増築に当たるということで作業も建設費も余分にかかった」(朝日新聞、10月9日)。作品の展示ではなく、美術館の増築と位置づけられたらしい。しかもそれが「全部自前」というから驚く。国立美術館で個展を開くには作家が金を出さなければならないようだ。
2017/09/26(火)(村田真)
運慶
会期:2017/09/26~2017/11/26
東京国立博物館[東京都]
日本の古美術にはあまり関心がないし、彫刻のことも詳しくないけれど、いちおう話題の展覧会なので見に行く。運慶の真作は諸説あるらしいが、一般に30点前後といわれている。だいたいフェルメールと似たようなもんだ。うち22点が出品されるというからジャーナリズム的には「事件」といえるかもしれない。ほかに康慶、湛慶ら父と子の作品も出ていて、キャッチーにいえば「望みうる最高の運慶展」といっていいかも。
彫刻ましてや仏像の見方なんか知らないけれど、でも見ればなんとなく運慶は違うということはわかる。おそらく康慶や湛慶も凡百の仏師に比べれば遥かに優れているのだろうけど、それでもなお運慶のほうが「うまい」と思う。この「うまい」と思う価値判断は、カタログのなかで同館の浅見龍介氏も述べているように、近代的な彫刻家として見たらということであって、けっして仏師としての価値基準ではない。一言でいえば「リアル」ということだ。ポーズといい表情といい衣紋といい、ほかの仏像には見られない個性が感じられ(もちろん作者のではなくモデルの個性)。匿名の人物像ではなく、特定の個人を描いた肖像になっているのだ。さらに玉眼を入れることで反則的にリアリティを増している。《無著菩薩立像》などはミケランジェロよりも近代的だ。
気になるのは色彩の剥落や変色、ひびなどのヨゴレ。《無著菩薩立像》と対の《世親菩薩立像》の顔など色がはがれて黒ずみひび割れ、まるで無惨な焼死体のようだ。まあ仏像の世界ではそんなヨゴレなど本質とは関係のない表面上の現象にすぎない、と思われてるのかもしれない。特に古美術の世界ではこうしたヨゴレはむしろ付加価値として尊ばれることもあるようで、興福寺の《四天王立像》など極端なヨゴレゆえにスゴミが何倍にも増幅されている。逆に《聖観音菩薩立像》みたいにハデな色彩(後補)のほうが安っぽく見られてしまいかねない。不思議なもんだ。
さて、運慶の彫刻で近年ジャーナリズムを騒がせたものに、真如苑の《大日如来像》がある(同展ではまだ運慶作と認められていないが)。この作品は2008年にニューヨークでオークションにかけられ、真如苑が日本美術品の最高値を更新する1400万ドル以上(約14億円)の値で落札し、懸念された海外流出を免れたと話題になったものだ。ところがその直後、村上隆の巨大フィギュア《マイ・ロンサム・カウボーイ》が、やはりニューヨークのオークションで1500万ドル(約16億円)を超す値をつけ、あっさり記録を更新。運慶がフィギュアに負けてしまったのだ。ともあれ、その《大日如来像》、像高60センチ余りと思ったより小さかった。
2017/09/25(月)(村田真)
Vik MUNIZ/ヴィック・ムニーズ
会期:2017/09/14~2017/09/28
日動画廊本店[東京都]
日動画廊本店にはもう何十年も入ってないが、入ってないのにいうのもなんだが、銀座の一等地に何十年も画廊を構えていられるのはともあれスゴイことだ。今回はnca(ニチドウ・コンテンポラリー・アート)と同時開催の現代美術展なので久々に入ってみた。ヴィック・ムニーズは粉や液体などで絵を描いたり、ゴミを寄せ集めて人物画を再現した写真作品で知られるが、今回は雑誌や画集を細かくちぎって貼りつけ、印象派の絵画を再現したコラージュを写真に撮ったもの。わかりにくいけど、最終的にプリントを作品としている。例えば、遠くからながめるとゴッホの《星月夜》だが、近づくと人の顔やら文字やらが現われるといった仕組み。果物を寄せ集めて人物画に仕立てるアルチンボルドのようなトロンプルイユともいえる。常連らしい中年男性は何度スタッフから説明を受けても理解できない様子。ふだんの日動画廊の作品とはずいぶん違うからね。ゴッホのほか、モネ、ルノワール、セザンヌ、ドガ、藤田嗣治などの絵画をネタにしている。特に藤田の《妻と私》は笠間日動美術館の所蔵作品を元にしたもので、3点売れていた(プリントなので複数ある)。モネの太鼓橋を描いた睡蓮の絵も2点売約済み。どれも日本にある絵を元にしているという。
2017/09/20(水)(村田真)
ヴィック・ムニーズ「Handmade」
会期:2017/09/14~2017/11/04
nca[東京都]
日動画廊本店と同時開催されている個展。こちらはすべて今年つくられた新作で、本店の作品をさらに発展させたもの。発展させたというのは、対象となる作品が20世紀以降の抽象絵画(実在しない)ということもあるが、それだけでなく、2次元と3次元を巧みに織り混ぜてより難易度の高いトロンプルイユに仕立て上げているからだ。例えば白いキャンバスに4本の切れ目を入れたフォンタナまがいの作品。これは図版ではまったくわからないが、ホンモノの切れ目は1本だけで、残る3本は写真、つまり写された切れ目なのだ。同様に、たくさんの色紙が貼ってあるように見える作品も、大半は写真に撮られた色紙で、実際に貼られた色紙は数枚しかない。しかもそれがじつに巧妙にできていて、顔を近づけてようやくホンモノか写真か区別がつくくらい。しょせん「だまし絵」といってしまえばおしまいだが、ここまで完成度が高いと尊敬しちゃう。
2017/09/20(水)(村田真)
パオラ・ピヴィ「THEY ALL LOOK THE SAME」
会期:2017/08/26~2017/11/11
ペロタン東京[東京都]
パオラ・ピヴィって最近聞いたことあるなあと思ったら、ヨコトリにカラフルなクマちゃんのぬいぐるみを出してたアーティストね。カワイイ羽毛に覆われた凶暴なホッキョクグマ。ここでも白と青の2頭のクマちゃんが宙づりになっているが、今回のメインは壁にかけられた9個の回転する車輪のほうだ。車輪はひとつずつ色もサイズもデザインも異なり、回転する向きも早さもそれぞれ違っている。さらに奇妙なのは各車輪にダチョウやキジ、キンケイなどさまざまな鳥の羽根を放射状につけてくるくる回っていること。金属製のカッチリした車輪に、フワフワ軽快な羽根。
2017/09/16(土)(村田真)