artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
新いけばな主義
会期:2017/06/24~2017/07/02
BankART Studio NYK3F[神奈川県]
「気鋭の現代いけばな作家が集結!」「現代いけばなの歴史的展覧会」「平成のいけばな史に残るであろう本展」と、力の入った文言がチラシに踊る。流派を超えて集ったいけばな作家は計27人。うち草月流が10人、小原流が5人、龍生派、未生流、古流松藤会、一葉式いけ花などなんらかの流派に属しているのが8人、フローリスト、フラワーアーティストなどインディペンデントが4人という内訳。一人にあてがわれたスペースは、不公平にならないようにグリッド状に並んだ柱から柱まで5×5メートルの空間に統一されている。
さてその作品だが、「新」とつくからには花瓶や水盤に生ける古風な花なんぞ期待してはいけない。ベニヤ板を重ねたり、ナスを漬けたり、花びらを水に浮かべたり、およそ植物を素材にしたものならノープロブレム。しかしいけばなとして見れば新鮮かもしれないが、現代美術として見れば特に目新しいものでもなく、既視感はぬぐえない。グランプリは、これはなんという植物だろう? 肉厚の巨大な葉を重ねて龍の姿に仕立てた原田匂蘭が獲得。しかしよく見ると、グランプリの対象になるのは公募による審査を通過した12人だけで、残り15人は招待作家なのだ。これはいわゆる公募団体展と同じやり方ですね。まあ小原流も龍生派も未生流も宣法未生流も古流松應会も古流かたばみ派も、家元が出してるから落とすわけにはいかず、あらかじめグランプリの対象から外したのかもしれない。どうでもいいけど。
2017/06/30(金)(村田真)
没後50年記念 川端龍子 ─超ド級の日本画─
会期:2017/06/24~2017/08/20
山種美術館[東京都]
川端龍子といえば戦争画しか知らなかったが、戦争画といってもそれこそ超ド級画で、大画面いっぱいにシースルーの戦闘機を描いた《香炉峰》とか、青い姿の水神が水雷を担いで発射させる《水雷神》など、トンデモ戦争画なのだ。ほかにも東京国立近代美術館所蔵の《輸送船団海南島出発》《洛陽攻略》など興味深い戦争画を描いているが、《香炉峰》と《水雷神》は敗戦後なぜか接収されず(あまりに表現が非現実的だったからか)、現在は龍子記念館の所蔵だ。今回は《香炉峰》のみの出品だが、高さ2.4メートル、幅7メートルを超す大画面はやはり圧巻。戦闘機の両端が画面からわずかにはみ出していることから、ほぼ原寸大で描かれたらしい。背景の香炉峰の緑と、機体の一部に塗られた朱色の対比が鮮やか。画面のド真ん中に日の丸が来るよう計算されている。
もう1点、敗戦直前に自宅が空襲で破壊された体験に基づく《爆弾散華》も、広い意味で戦争画だ。ただし、家も炎も描かれておらず、飛び散る植物の図に金箔を散らしたもので、作者の解題がなければわからない。ほかに、サメ、エイ、イカ、クラゲなどが宙を舞う《龍巻》は、国際連盟を脱退する1933年の制作で、これも日本の生命線である太平洋をモチーフにしている点で戦争の匂いがする。日本画というのは多かれ少なかれナショナリズムに根ざした表現なので、戦争が近づけば「がんばれニッポン」に傾かざるをえないのかもしれない。
2017/06/29(木)(村田真)
KIYOME MO/NU/MENT
会期:2017/06/30~2017/07/02
スパイラルガーデン[東京都]
そういえば審査したのは何年前だっけ……と、忘れたころに(3年前でした)コンペで選んだ作品の発表会が開かれた。タイトルからはなんのコンペか想像がつかないだろうが、じつは木曽に本社を置く檜風呂の制作販売会社、檜創建が主催する木曽檜を使った浴槽のコンペなのだ。タイトルの「KIYOME」とは「清め」「浄め」であり、入浴の婉曲な表現だ。発表まで3年もかかったのは、コンペで選ばれた彫刻家の木戸龍介によるプランが卵型のシェルターを持ち、おまけに表面の一部に網状の透かし彫りを入れるという手の込んだデザインだったため、制作に予想以上の時間がかかったから。主催者あいさつ、審査員の講評、乾杯に続き、希望者は卵の内部に入って(湯は張ってないが)入浴気分を堪能できる。入ってみると檜の香りが漂うなか、透かし彫りから外の光が星明かりのように差し込んできて、これはぜひ湯を張って入りたいと思わせるデキだった。
2017/06/29(木)(村田真)
久松知子展「ひさまつ子の思い出アルバムpainting」
会期:2017/06/23~2017/06/29
トライギャラリーおちゃのみず[東京都]
日本近代美術史の内輪話を大作に仕立て上げてきた久松知子が、今度はプライベートな打ちあけ話を小品に描いている。おそらく東北芸工大の友人や先生らと学園祭や同好会、飲み会で撮った写真をベースにしたもの。本人たち以外にはどうでもいいような場面ばかりだが、それがなかなか魅力的に仕上がっているのは久松の画力が上がってきたからか。
2017/06/27(火)(村田真)
歿後60年 椿貞雄 師・劉生、そして家族とともに
会期:2017/06/07~2017/07/30
千葉市美術館[千葉県]
椿貞雄は岸田劉生の門下生で、平塚市美術館で開かれていた刺激的な企画展「リアルのゆくえ」にも出ていたので見に行く。出品は200点近くあるが、前半は椿だけでなく、劉生の《自画像(椿君に贈る自画像)》《椿君之肖像》など椿関連の作品も多く、少し得した気分(ちなみに《椿君之肖像》は6月11日までの平塚市美にも出ていたから忙しい)。肝心の椿の作品は初期こそ濃密な描写で劉生とタメ張っていたが、劉生没後は《髪すき図》やいくつかの《冬瓜図》を除き、次第に凡庸な静物画や家族の肖像画、趣味程度の水墨画に堕していく。想像するに、彼は生活のために学校で教え、家庭にも恵まれていたようだから、極端な冒険をする必要も求道的な生活を送る必要もなく、そこそこ幸せに暮らしたのかもしれない。別に不幸こそ芸術の友といいたいわけではないけれど。
2017/06/25(日)(村田真)