artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

猪熊弦一郎展 戦時下の画業

会期:2017/09/16~2017/11/30

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館[香川県]

今回の香川県一人旅のメインはこれ。猪熊は1938年にフランスに遊学し、マティスに師事したり藤田嗣治と親交を結んだりしたが、40年に戦火を逃れて帰国。戦前からマティスやピカソばりの絵を描いていたのに、日本が開戦すると作戦記録画を描くよう期待され、中国、フィリピン、ビルマ(ミャンマー)などに派遣される。猪熊は記録画を少なくとも3点描いたが、現存するのは東近美の《○○方面鉄道建設》1点だけで、あと2点は行方不明。ひょっとしたらもっと描いていたかもしれないが、ほかの画家もそうしたように、敗戦時に自らの手で焼却してしまった可能性もある。だいたい3度も外地に派遣されながら3点しか制作しなかったというのは少なすぎる。解説によると、瀧口修造と福沢一郎が検挙されたあと、次は猪熊と佐藤敬が危ないといわれ、逆らえなかったらしい。
展示はフランスでの藤田との交流を示す作品や資料、日中戦争中の中国の子どもを描いた大作《長江埠の子供達》、外地でのおびただしいスケッチ、軍からの出品依頼書、佐藤敬の《クラークフィールド攻撃》、小磯良平の《日緬条約調印図》といった戦争画、そしてただ1点残された猪熊の記録画《○○方面鉄道建設》など、戦前から戦後までの足跡をたどっている。この幅4.5メートルある《○○方面鉄道建設》は、捕虜を死ぬほどこき使った過酷な労働で悪名高い泰緬鉄道の工事の様子を描いた横長の超大作。「○○方面」と地名が伏されているのは、おそらく秘密裏に工事が進められていたからだろう。マティスに学んだとは思えないリアリティに富んだ(つまり色もかたちも面白味のない)記録画。猪熊は生前、戦争画について語ることはほとんどなかったというが、例えば《長江埠の子供達》に比べれば気乗りがしなかったことはよくわかる。それでも描こうと思えば描けちゃうところがプロの哀しさというか。

2017/11/07(火)(村田真)

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高松コンテンポラリーアート・アニュアルvol.06/物語る物質

会期:2017/10/22~2017/11/26

高松市美術館[香川県]

高松へは何度か来たことはあるけど、いつも直島や瀬戸内国際芸術祭への通過点で、市美術館に入るのは初めて。で、でかい! 香川県は日本一小さい県だから美術館も小ぶりと勝手に思い込んでいたが、高松市は人口40万人を超える中核都市。しかもその中心街の一画にどっかり居座っている。お見それしました。同館が設立されたのは戦後間もない1949年。地方で最初期の公立美術館としての矜持があるのだろう。質の高い企画展をやっているのは知っていたが、建物がこんなに立派とは。昨春リニューアルオープンしたところだという。
さて、今年で7回目となるアニュアル展。なのに「vol.06」となってるのは、初回が「vol.00」だったから。今回は「物語る物質」をテーマに6人のアーティストが出品。紙や動物の頭蓋骨にシルクスクリーンで何十回も刷り、インクを盛り上げていく小野耕石、訪れた場所の土を使って風景画を描く南条嘉毅は知ってるが、あとは未知のアーティスト。須賀悠介は、弓矢を丸く曲げてウロボロスのヘビみたいに自分の尻に刺したり、木の板壁に大きな圧力を加えたかのように円形の凹みをつくったりしている。どこか既視感のあるシュールなイメージを、あえて立体化しているところがいい。ま、とにかく未知の作品に触れられただけで行った甲斐があった。

2017/11/07(火)(村田真)

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第4回CAF賞展

会期:2017/10/31~2017/11/05

ヒルサイドフォーラム[東京都]

CAFとはゾゾタウンの前澤友作氏が会長を務める現代芸術振興財団。そのCAFが主催する、全国の学生を対象にしたアートアワードの入選作品展だ。2014年に始まり、今年で4回目。展示されているのは16人の絵画、立体、インスタレーションなど。このなかから白石正美(スカイ・ザ・バスハウス代表)、薮前知子(東京都現代美術館学芸員)、齋藤精一(ライゾマティクス代表取締役)の3人の審査員が最優秀賞1人、審査員特別賞3人を選ぶのだが、そもそも入選した16人はだれが選んだの? 3人の審査員? 入選者の内訳は、大学院も含めて東京藝大6人、京都造形大3人、京都芸大2人、多摩美2人、そのほか3人と、全国の高校から専門学校までを対象としてる割にはかなり偏りがあるなあという印象。作品もグラフィティ風、ゆるキャンの小林正人風、板材を支持体に使うバスキア風の作品が目立った。ジャン・ミッシェル・バスキア好きな前澤氏の好みを忖度したのではないかと勘ぐりたくなる選択だ。
肝心の最優秀賞は木村翔馬、以下、白石正美賞は大久保紗也、薮前知子賞は小山しおり、齋藤精一賞は菅雄嗣と、いずれも絵画が受賞した。これは納得。最後の展示室には、前澤氏が今年5月に約123億円で購入し話題を呼んだバスキア作品が、クリストファー・ウールやマーク・グロッチャンらの作品とともに展示されていた。比べるのもなんだが、やっぱり学生の作品とはぜんぜん違うなあ。ところで、昨年オークションで約62億円で落札したバスキア作品はどうしたんだろう? 並べてほしかったなあ。

2017/11/01(水)(村田真)

THE ドラえもん展 TOKYO 2017

会期:2017/11/01~2018/01/08

森アーツセンターギャラリー[東京都]

1990年に東京国立近代美術館で「手塚治虫展」が開かれて以来、美術館でのマンガやアニメの展覧会は珍しくなくなった。でも本来マンガは雑誌、アニメはテレビか映画で見るものであって、美術館で鑑賞するものではない。同じく実物を持ってこれない建築も、使ってなんぼのデザインも、手に持ってながめる浮世絵も美術館で見る(見せる)ものではないと思っている。でもこの「ドラえもん展」は、原画や映像を紹介するのではなく、いま活躍中のアーティストに「あなたのドラえもんをつくってください」と依頼して制作された作品を展示するもの。だからいわゆるマンガ展ではなく、現代美術展というべきだろう。
じつは同じ趣旨の「THEドラえもん展」は15年前にも開かれていて、それも見た覚えがある。たしか大阪のサントリーミュージアム天保山(閉館)だったような気がするので調べてみたら、サントリーミュージアムで見たのは故東谷隆司が手がけた「ガンダム展」(2005)で、「ドラえもん展」のほうは巡回先の横浜そごう美術館で見たのだった。「ドラえもん展」もサントリーミュージアムから立ち上がってるし、どちらもアーティストが参加した現代美術展なので勘違いしていた。ていうか、ぼくは世代が違うので、ガンダムだろうがドラえもんだろうがどっちでもよく、ただアーティストがサブカルチャーにどれほど影響を受けているのかを知りたくて見に行っただけなのだ。ちなみに前回展で強烈に覚えているのは、レンブラントの自画像とドラえもんを強引につなげた福田美蘭の作品。今回はこれと対になるように水墨画とドラえもんを結びつけた新作を描き、うれしいことに旧作と並べている。美術史への愛と冒涜をドラえもんを介して表現した2点。ほかに奈良美智、蜷川実花、村上隆、森村泰昌が前回に続いて2度目の出品となる。
初出品では、自主規制でしずかちゃんを描いた(いや描かなかった)会田誠、ドラえもんの彫刻をつくって表面にプロジェクションマッピングした西尾康之(このふたりは「ガンダム展」にも強烈な作品を出していた)、もっと下の世代では、走る鉄道模型で一瞬ドラえもんらしき影を映し出すクワクボリョウタ、巨大化したしずかちゃんを超リアルに描いた坂本友由、ひみつ道具をいかにもそれっぽく立体的に再現した伊藤航と、それを水墨画でリアルに描写した山口英紀のコラボレーション、黒板にチョークで「のび太の新魔界大冒険」の1シーンを描いたれなれななど、予想以上に力作がそろっている。前回はグラフィックや映像が多くてガキンチョが喜んでいたが、今回は絵画を中心にアート系が大半を占め、しかも技巧的に確かな作品が目立つ。これは同展を監修した山下裕二氏の力によるところが大きいだろう。ドラえもん世代でなくても十分に楽しめる展覧会になっている。

2017/10/31(火)(村田真)

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増田セバスチャン作品展 YOUR COLORS

会期:2017/10/20~2017/11/12

A/Dギャラリー[東京都]

「THEドラえもん展」にも出していた増田セバスチャンの個展。円形や矩形や立体の表面に、プラスチックのフィギュアやチープなアクセサリー、ビーズなどちっちゃくてキラキラしてポップでカワイイ物体を散りばめた作品が約20点。それぞれピンク系、ブルー系、グリーン系と大ざっぱに色分けされ、ただひたすらカワイイという気分をくすぐることに徹している。ざっと見たところ1点に数百個のグッズがびっしり貼りついていて、この会場だけで1万個は下らないだろう。いったいどれだけ材料をストックしているんだ? それをどこから仕入れて、どこに保管しているんだ? 倉庫いっぱいキラキラ物資があふれてるんじゃないか? そんなことばかり気になるし、そっちのほうも見てみたくなる。

2017/10/31(火)(村田真)