artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
出島《表門橋》
[長崎県]
出島へ。一部は保存した近代建築を残しつつ、全体としてはテーマパーク的に復元したエリアになっており、やり過ぎと思う場面もなくはないが、かつてと同じ場所において、同じ空間のスケールを感じられることには大きな意味があるだろう。特にカピタン部屋の和洋折衷ぶりは、オランダ側に残された資料に基づく復元だったが、本当にこれが存在したのか?と思うようなインパクトだった。なお、出島にもローラン・ネイによるユニークな構造の《表門橋》が設置されており、これは近くオープンする予定である。
写真:上=出島の風景 左上=出島の模型 右下2枚=カピタンの部屋 左下=《表門橋》
2017/07/17(月)(五十嵐太郎)
《ナガサキピースミュージアム》《旧香港上海銀行長崎支店記念館》
[長崎県]
古市徹雄が設計した《ナガサキピースミュージアム》は、三角形のコンクリートのヴォリュームをもつ。アプローチは水に反射する光が美しい。ギャラリーは小さいが、大胆に扉を開けることができ、外部のステージと一体になる仕掛けだった。上部はオフィス兼物置である。訪問したときは、原爆による被災物を3Dスキャンした作品を展示していた。ちょうど巨大な客船が横に係留していただけに、ピースミュージアムの小ささが際立つ。そのはす向かいには、辰野と確執が伝えられる下田菊太郎の《旧香港上海銀行長崎支店記念館》が建つ。列柱の外観はマッシブ、内部はトップライトや繊細な部屋もある。港湾都市として近代に栄えた小樽でも、明治時代の銀行やオフィスが残っているが、貴重な近代建築だ。
上、右下=《ナガサキピースミュージアム》 左下2枚=《旧香港上海銀行長崎支店記念館》
2017/07/17(月)(五十嵐太郎)
《丘の礼拝堂》
[長崎県]
JCDデザインアワードで2位だった百枝優による《丘の礼拝堂》へ。あぐりの丘高原ホテルのウエディング・チャペルだ。矩形のプランに対し、室内では頬杖をのばした4本の柱が立ちあがり、その回転・縮小したものを縦に積みながら、3層に展開する。これが抽象化された森のイメージを感じさせ、装飾的なデザインにも見えるのだが、構造から導かれた幾何学的な構成はお見事だ。そして宗教建築の歴史にも接続しているのが興味深い。
2017/07/17(月)(五十嵐太郎)
《旧熊本逓信病院》《熊本北警察署》《熊本大学》
[熊本県]
解体工事を予定しており、もうすでに周囲が塀で囲われた山田守による《旧熊本逓信病院》を訪れた。塀越しで全体像が少し欠けていても、山田らしい衛生陶器モダニズムの優れたデザインは十分に伝わるのだが、驚かされたのは建物の背後にまわってみても、立体的な造形の組み合わせが面白いこと。これほど後姿もチャーミングな建築もめずらしいのではないか。現在も続く熊本アートポリス(KAP)の事業には頭が下がるが、この名建築の解体はもったいないように思う。続いて、KAPの第一号となった篠原一男の《熊本北警察署》(外観はいかついが、内部をよく見ると、エントランス・ホールの装飾や家具はなにげにかわいい)に立ち寄ってから、熊本大学のキャンパスへ。明治20年代の五高資料館、旧化学教室、正門など、いくつかの近代建築がきちんと残っている。ここまで古い建築が現存する日本の大学はもうほとんどないだろう。
写真:左上2枚=《旧熊本逓信病院》 右下2枚=《熊本北警察署》 左下=《五高資料館》
2017/07/16(日)(五十嵐太郎)
《熊本県立装飾古墳館》
[熊本県]
安藤忠雄の《熊本県立装飾古墳館》に向かう。到着してすぐ目に入る駐車場の横のトイレが幾何学的なデザインで、まずカッコいい。建物本体も、円を描くスロープ沿いに、古墳群を眺める展望台と地下の屋外展示(音の回廊としても響きがよい)をつなぎ、まさに空間を歩く体験を楽しめる。こうしたランドスケープと絡む建築は、安藤の腕の見せ所だろう。20世紀の抽象絵画を思わせる古墳内部の装飾を、レプリカの空間再現によって見せる展示の内容も面白い。
写真:左上2枚=《熊本県立装飾古墳館》のスロープ 右下=トイレ 左下=内部展示
2017/07/16(日)(五十嵐太郎)