artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
《宇土マリーナハウス》《宇土市立網津小学校》《宇土市立宇土小学校》
[熊本県]
熊本市内に向かう海辺の道路沿いにしょうもない建物やつぶれた店舗が続くなか、吉松秀樹によるストライプを施した《宇土マリーナハウス》は一服の清涼剤だった。坂本一成による《宇土市立網津小学校》は、集落のように連続するヴォールト屋根が印象的なデザインだが、現地を訪れると、周囲にビニールハウスが並ぶ風景のヴァナキュラー的な表現のように見える。そしてCAtによる《宇土市立宇土小学校》の外観は、強く主張しないが、階段を上って中庭群が見える2階レベルを散策すると、とても魅力的な空間であることに感心させられた(休日のために、子どもがまったく不在でもよいのだ)。威圧的になりがちな体育館のヴォリュームも巧みに全体の構成に組み込み、プールもカッコいい。ただし、教室には入ってないので、さまざまなに配置されたL壁の効果は確認できなかった。
写真:上3枚=《宇土市立宇土小学校》 左下2枚=《宇土マリーナハウス》 右下2枚=《宇土市立網津小学校》
2017/07/15(土)(五十嵐太郎)
MONSTER Exhibition 2017
会期:2017/07/14~2017/07/18
渋谷ヒカリエ8 / COURT[東京都]
公募の審査を務めた「MONSTER展」のオープニング@ヒカリエ。今年は平面作品が多いこと、ノンジャンルだが、アート系が目立つ。ベタな怪物を表現した作品よりも、「monster」の語源にさかのぼり、その存在を予感させる西尾侑夏、hasaqui yamanobe、ATSUらの絵画が興味深い。ただ、本当の力作は立体の方にあって、慰霊の念を込めたアール・ブリュット的、チェンソーを駆使した荒々しい造形による山元町のしょうじこずえと、化ける女性に狐の相貌を与えた木彫の木村桃子が印象的だった。物語の妄想力という観点では、倉坪杏奈によるハイブリッド・ヒューマノイドのプレゼンテーション(?)はインパクトがあった。オープニング後の打ち上げでは、鳥山明で目覚めて、いまも続くドラゴン愛を多面的に語る女性(作家名はDRAGONIST)がいて、さすが「MONSTER展」の参加者だと感心させられた。もっとも、今回の応募作はそのパッションが足りず、昔の作品の方が熱量は大だった。
2017/07/13(木)(五十嵐太郎)
超絶記録!西山夘三のすまい採集帖
会期:2017/06/09~2017/08/22
LIXILギャラリー大阪[大阪府]
展覧会のカタログに寄稿した「超絶記録! 西山夘三のすまい採集帖」@LIXILギャラリーへ。日本の漫画史でも紹介されたように、伊東忠太が漫画を描いたのは有名だが、西山も子どものときから書きためた漫画をこんなにも保存していたのかと驚かされた。団地から戦後のバラックにいたるまで、さまざまなタイプの住宅の「河童が覗いたインド」的(登場した順番は逆だけど)なドローイング群が壁をおおう。手を動かすことが好きだったに違いない。そして写真による住まいの記録、極小の文字でぎっしりと書き込まれたメモ帳も圧巻だった。
2017/07/10(月)(五十嵐太郎)
関西学院大学 西宮上ケ原キャンパス
[兵庫県]
博士論文の審査のために、関西学院大学の西宮上ケ原キャンパスへ。時計台を中心にして、ウィリアム・メレル・ヴォーリズの手がけた建築群が囲む最初のエリアは、ちょっと日本の大学とは思えない、西洋的な雰囲気が漂う。古い建築を保存し、また新しい部分もヴォーリズのスタイルを踏襲し、かなり統一された景観を形成している。なお、本人も建築を学んだ経験をもつ松村淳の論文「現代日本における〈建築家〉の社会学的研究」は、社会学的なタームによって建築家の状況を整理したものだった。建築家のエートス養成の場を大学教育に求め、CADによる職能の変化を論じ、アンソニー・ギデンズの脱埋め込みと再埋め込みの枠組から、現在のコミュニティ・デザイン的な傾向を位置づける。
2017/07/10(月)(五十嵐太郎)
チェルフィッチュ「部屋に流れる時間の旅」仙台公演
会期:2017/07/07~2017/07/08
仙台市宮城野区文化センターパトナシアター[宮城県]
京都や東京の公演では全然チケットをとれなかったのに、仙台は楽勝で、しかも空席が残っていたのが気になった。物語の形式において部屋で女性の死者が一方的に男性に語るサミュエル・ベケットの『ねえジョウ』を思いだ出したが、大きく異なるのは、青柳いづみの生々しい身体が現前すること。そして希望だったはずの震災後の現在を問う。さらに、そこに未来の女による語りも重なる。
2017/07/08(土)(五十嵐太郎)