artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
《久留米シティプラザ》
[福岡県]
着工前にレクチャーで関わったプロジェクトということもあり、完成した姿を見るために、香山壽夫らによる《久留米シティプラザ》を訪れた。横浜のKAATなど、香山による他のホールとの共通点も多いデザインだが、むしろ異なる部分が興味深い。これはアーケードに隣接する、閉鎖した百貨店の建て替えプロジェクトであり、中心市街地の空洞化を避けることも意図していた。ゆえに、端部の大きな屋外広場を抱え込みながら、透明性が高いデザインによって市民への開放をより強く打ち出した点に現代性が感じられる。大ホールのホワイエも閉じられた空間ではなく、通行人が行き交う場所になっている。
写真:上=《久留米シティプラザ》外観 左上=屋外広場 左下=大ホール 右下=大ホールのホワイエ
2017/07/16(日)(五十嵐太郎)
《武雄温泉楼門》
[佐賀県]
佐賀にて、辰野金吾+葛西万司が手がけた《武雄温泉楼門》と新館を見学する。バタ臭い近代の様式建築で知られる彼らが、こうした竜宮城的な和風のデザインを手がけていることが興味深い。例えば、新館は複数の千鳥破風と唐破風、花頭窓をシンメトリカルに配し、とても賑やかな外観である。そして入口の楼門をくぐる際に見上げると、なんと折り上げ格天井で思わずのけぞった。ちなみに、佐賀は辰野の故郷である。
写真:上=《武雄温泉楼門》 下=新館
2017/07/16(日)(五十嵐太郎)
《武雄市図書館》
[佐賀県]
いろいろな意味で「話題」の《武雄市図書館》へ。緩やかにカーブさせることで、端部にいても本棚の壁が一覧できる空間とダイナミックな木造の屋根架構である。スタバのエリアはおしゃれで、旗艦店を意識してか、TSUTAYAの品揃えもセンスがよい(都会のTSUTAYAよりも!)。隣には子供図書館を増築中だった。が、本棚最上段のフェイクの背表紙や、マニュアル本の多さなど、図書館としては疑問で、単純に公共建築の「成功」事例とみなしてよいかという疑問は残る。もっとも、対面はyou meタウンで(ユニークな肥前鳥居もあるが)、ファスト風土の地方都市の街並みを見ると、TSUTAYA図書館に人が集まる背景もよくわかるのだが、ほかのオルタナティブはつくれないものか。
写真:肥前鳥居
2017/07/16(日)(五十嵐太郎)
熊本地震、木造仮設住宅
[熊本県]
熊本へ。空港の近くで被災が甚大だった益城町のエリアは1年以上が過ぎ、激しく壊れた建物はもうあまり目につかなくなっているが、不自然なくらい真新しい道路、地盤や塀の破壊、使用停止になった庁舎、体育館、運動施設、そしておそらく大破し、住宅が除去された空き地などが、地震の記憶を想起させる。やはりプレハブの仮設が多いなか、ここでもいち早く間仕切りを避難所に設営していた坂茂による御船町の木造仮設住宅は、小さなコミュニティの場を中央に挟み、建築としても質が高い。ただし、これは例外的な試みとなっており、これがもっとシステム化され、社会で運用されるとよいのだが。
写真:上3枚=坂茂による木造仮設住宅 左下=破壊された地盤 右下=使用停止になった庁舎
2017/07/15(土)(五十嵐太郎)
《三角港キャノピー》
[熊本県]
三角港へ。葉祥栄による《海のピラミッド》を訪れるのは、25年ぶりか。フェリー航路がなくなり、現在は純粋なモニュメントと化したが、機能を喪失したことによって、円錐の内外に二重螺旋を描く明快な幾何学はむしろ強度を増した。今回は橋梁などの土木デザインで知られるローラン・ネイが設計した弧を描く《三角港キャノピー》の見学が目的である。これは葉の円錐との絶妙な形態の関係、一列の細い柱で屋根を支える構造美、風景の切り取り方が素晴らしい。また、すぐ正面に建つ三角駅はレトロ建築でかわいらしい。そして近くの小材健治による《漁業取締事務所》は攻撃的な造形だった。『建築MAP九州』では全然魅力的に紹介されていないが、三角西港のエリアがととてもよかった。世界遺産に指定されているが、ヘンに浮かれた感じもなく、落ち着いた街並みである。オランダ人技師と石工による明治時代の土木事業が丁寧で、石造の排水路やウォーターフロントの美しいこと。そして明治、大正にさかのぼる近代建築群も保存されている。国内において近代の港がこれだけ街ごと残っているケースはめずらしい。
写真:上=《三角港キャノピー》と《海のピラミッド》 左上から=《三角港キャノピー》の広場と駅、三角駅、三角西港の近代建築 右上から=《海のピラミッド》内部、《漁業取締事務所》
2017/07/15(土)(五十嵐太郎)