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五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

サバイバルファミリー

矢口史靖監督『サバイバルファミリー』。突如、電気が消失し、機械音がない世界に変貌する。そこで日本人共同体の日常が緩やかに綻び、やがて取り返しがつかなくなっていく序盤の、不気味さは絶品だった。ただし、家族のみで九州に向かう中盤からはやや説教くさい。絶体絶命でのカタルシスも、あっと驚くのだけど、序盤からのトーンとは違う。もっとも、電気が消えるというワンシチュエーションの設定は、発明的である。

2017/03/26(日)(五十嵐太郎)

藤森照信展 自然を生かした建築と路上観察

会期:2017/03/11~2017/05/14

水戸芸術館現代美術センター[茨城県]

増田彰久の写真を使いながら、藤森の作品を紹介する。また、床置きの木彫り模型、味のある手書きスケッチなどが目を引き、味気ない模型や図面が並ぶ通常の建築展に比べると、藤森は展覧会向けかもしれない。一番興味深いのは、最後のパートにあった壁に立て掛けた素材見本だ。触りたくなるテクスチャー表現の工夫、雨漏りしないためのディテールを実物で紹介している。ちょうど水戸芸術館の高校生ウィーク2017で、ワークショップ室を無料カフェとし、隣ではたねやがお菓子を販売していたが、展示室でも(!)一部飲食可能としたり、苔を持ち込むなど、実はかなり攻めた美術館の使い方に挑戦していた。また、街なか展示では、ワークショップで採集された水戸の路上観察物件を紹介していた。

2017/03/25(土)(五十嵐太郎)

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カッサンドル・ポスター展 グラフィズムの革命

会期:2017/02/11~2017/03/26

埼玉県立近代美術館[埼玉県]

キュビスムやバウハウスの幾何学革命をセンスよく、ポピュラー化して大成功した商業的なグラフィック・デザイナーの軌跡をたどる。彼が途中からシュルレアリスムに傾倒し、混迷したあたりの作品をあまり知らなかったので興味深い。だが、逆にカッサンドルは、アーティストとしての自我が芽生え、悩み始めたことが、自殺という悲劇をもたらしたのだろう。

2017/03/22(水)(五十嵐太郎)

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読響第94回みなとみらいホリデー名曲シリーズ

会期:2017/03/20

横浜みなとみらいホール[神奈川県]

下野竜也が読響で首席指揮を務める最後のコンサート@みなとみらい。プログラムが面白い。マニアックなフィリップ・グラスのミニマル・ミュージックと、彼の思い入れがあるドヴォルザーク「新世界より」の組み合わせだけでも変わっているが、冒頭とラストのおまけがパッヘルベルのカノンである。オーケストラで、こんなにベタ曲をと思いきや、最初のカノンの演奏では、低音を中心手前、高音を周囲に散らし、立体的な音空間をつくりあげる。そして、最後は順番に演奏者が増え、全員になると、今度は順に退場し、最後は誰もいなくなるという凝った演出だった。

2017/03/20(月)(五十嵐太郎)

神奈川県民ホール・オペラ・シリーズ2017 W.A.モーツァルト作曲 魔笛 全2幕

会期:2017/03/18~2017/03/19

神奈川県民ホール[神奈川県]

ともすれば、子どもだましで、コミカルな学芸会風の装置になりがちなこの演目に対し、闇と光、回転するリング群だけで構成された舞台美術は、驚くべきシンプルなものだが、佐東利恵子らのダンスとナレーションを増量している。おそらく正統なオペラファンには目障りかもしれないが、こうした実験がなければ、今回の演出にわざわざ勅使川原三郎を起用した意味がない。美しい舞台で、指揮や歌もよかった。

2017/03/19(日)(五十嵐太郎)