artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

台湾専売局、司法院ほか

[台湾、台北市]

未見だったものを中心に、台北の建築を急ぎ足でまわる。中正区では、森山松之助による《台湾専売局》(1913)、《教育大学》、《司法院》、《国軍歴史文物館》、そしてマルコ・カーサグランデによる一部を廃墟にしたままのリノベーションの《Ruin Academy》(2010)。西門周辺では広場として整備された《西本願寺》、修復工事中の《紅楼》など。北門に向かい、一階は石造の《撫臺街洋樓》(1910)、ペアコラムやエジプト風の意匠が目立つ、栗山俊一による《台北郵便局》(1930)。再び迪化街を抜けて、《長老教會大稻 教會》へ。古い教会(1915)の背後に高層棟(2007)を増築したもの。ただし、黒子のように姿を消すのではなく、教会の意匠を抽象化して継承する。青木淳の《台北ビル》(2009)は、モザイクによる幾何学装飾をつけた集合住宅だ。

写真:左=上から、《台湾専売局》《Ruin Academy》《西本願寺》 右=上から、《台北郵便局》《長老教會大稻 教會》《台北ビル》

2017/01/01(日)(五十嵐太郎)

フィールドオフィス・アーキテクツ+ 聲遠の作品群(羅東鎮)

宜蘭県[台湾、宜蘭県]

鉄道にのって、隣の都市へ。フィールドオフィス・アーキテクツ+ 聲遠の代表作である羅東文化工場は、想像以上にデカイ。ダイナミックな大屋根に細長いギャラリーを斜め方向に吊り、その下に階段や舞台、展示室、藤森照信の茶室などがある。壮大な広場だ。大阪万博の大屋根に挿入されたユニットを歩くのも、こんな感じだったのだろうか。
最後は羅東の樟仔園歴史物語公園へ。縫製工場の屋根を移設しつつ、公園にリズミカルな屋根を設け、周囲の孔子廟や教会などと連結する場をつくる。フィールドオフィス・アーキテクツによる新築は必ずしも多くないが、都市の隙間をつなぐような仕事を継続的に発見/創造する。ある意味では、卒計ならできるよね、といった類いのデザインを本当に実現しているというべきか。

写真:左上2枚=《羅東文化工場》 左下=藤森照信の茶室 右上=《羅東文化工場》 右下2枚=《樟仔園歴史物語公園》

2016/12/31(土)(五十嵐太郎)

フィールドオフィス・アーキテクツ+ 聲遠の作品群(宜蘭誠品書店、 王光小道ほか)

宜蘭県[台湾、宜蘭県]

街の中心である三日月ショッピングプラザの宜蘭誠品書店も、彼らの手がけたインテリアだが、樹の模倣、緑色、床の傾斜によって、屋外プロジェクトとの視角的な共通性を維持する。向かいの宜蘭美術館は台湾銀行のリノベーションだ。旧建築との対話によって、複雑な空間/デザインが生まれている。そして、新しく設けられた屋上からは街を望む。
宜蘭酒造所再生は、やはり緑の共通色を用いながら、古い配管などを再利用しつつ、広大な工場や倉庫を地域に開放されたミュージアムや商業施設の場に変えている。続いて、楊士芳記念林園は、初期のプロジェクトだけに、多様な素材と手法による密度の高いデザインだった。ここでも建築とランドスケープが一体になっている。
王光小道は、普段なら歩かない、家のあいだを通りぬけるような公道をつくったり、電力会社の壁を切り取り、その庭を提供し、プライベートとパブリックの境界を揺るがす。その先にあるのが、宜蘭社会福祉センターだ。大晦日とはいえ、街は十分に温かく、風通しのいい陰だまり、ベンチの提供などがありがたい。社会福祉センターからは西堤屋根付橋のブリッジを経て、宜蘭河堤グリーンベルト、そして、対岸に渡る津梅橋遊歩道へとつなぐ。特に橋の脇に添えられた小さな空中歩廊は揺れ動き、水上を歩くような刺激的な空間体験である。いずれもセンスがキレキレというよりも、随所に楽しさやユーモアが感じられるデザインだ。

写真:左=上から、《宜蘭誠品書店》、《宜蘭美術館》、《宜蘭酒造所》、《楊士芳記念林園》 右=上から、 王光小道、《宜蘭社会福祉センター》、《西堤屋根付橋》、宜蘭河堤グリーンベルト、津梅橋の脇に添えられた空中歩廊

2016/12/31(土)(五十嵐太郎)

フィールドオフィス・アーキテクツ+ 聲遠の作品群(宜蘭駅周辺)

宜蘭県[台湾、宜蘭県]

台北からバスに乗って、初の宜蘭へ。山を抜けて、目的地に近づくと、田園風景のなかに家がちらほら見える。ここでフィールドオフィス・アーキテクツ+ 聲遠の作品群をまわった。ギャラリー間の個展でも紹介していたように、街のあちこちに連続的に彼らのプロジェクトが継続/展開している。昔は弘前の前川國男、釧路の毛綱毅曠、直島の石井和紘らがそうした仕事をしていたが、いまの日本では難しそうなまちづくりが本当に実現している。まず、宜蘭の古い駅は、動物などメルヘンチックなペイントがなされ、その正面に大樹群を模した緑の有機的造形、DiuDIUDang森林の大屋根が広がる。しかも、空飛ぶ汽車を吊り、テーマパークのようだ。ランドスケープもうねうねと隆起し、ロマンティック・デコンというべき広場が出迎える。駅横の観光案内所も彼らのリノベーションだった。
隣接するにぎやかな中山小学校体育館から、進行中のプロジェクトを経て、微細な介入による156通りの小径、自然と混ざっていく旧城新掘割のランドスケープは、ポストモダンや象設計集団の用賀プロムナードなどを想起させるデザインである。点としての建築ではなく、線としてプロジェクトが連続している。

写真:左=上から、宜蘭へ向かう道中の風景、《宜蘭駅》 左下2枚=DiuDIUDang森林 右上=156通りの小径 右下2枚=旧城新掘割

2016/12/31(土)(五十嵐太郎)

花博公園、台北ビエンナーレ2016ほか

会期:2016/09/10~2017/02/05

花博公園、台北市立美術館[台湾、台北市]

圓山駅から花博公園を歩く。ペットボトルをリサイクルし、夜はLEDで内部から光る壁をもつARTHUR HUANGのエコ・アークなど、2010年の博覧会開催時に訪れたパヴィリオンがいくつか残る。台北市立美術館の南側エントランスに接続された新しいガラスのチューブから入る。台北ビエンナーレ2016はレベルが高く、本格的な内容だった。陳界仁によるハンセン病施設の映像がやはり強烈である。シバウラハウスでのパフォーマンスも紹介され、写真に僕の背中が映っていた。ほかにXavier LE ROYによるコレオグラフィーの実演、建築ではカンボジアのPEN Sereypagnaなど。2階では、フランシス・アリスの小を散りばめる。また、ビエンナーレがスタートして10周年ということもあり、1996年から2014年の歴史を振り返るメタ展示も開催していた。継続によって確かな蓄積になっている。地下では、台北アートアワード2016展を開催し、1980年代生まれのさまざまなタイプの若手作家を紹介していた。3階では、1941年生まれの女性写真家、王信の大規模回顧展が開催されていた。

写真:左=上から、《エコ・アーク》、《台北市立美術館》の南側エントランス、Xavier LE ROY、PEN Sereypagna 右=上から、フランシス・アリス、10周年展示、台北アートアワード2016展、王信回顧展

2016/12/30(金)(五十嵐太郎)