artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
『凸と凹と 竹中工務店設計部のなかみ』
発行所:美術出版社
発行日:2009年3月20日
大手ゼネコンの竹中工務店の本である。だが、よくあるようなキレイな竣工写真を並べた立派な作品集ではない。美術出版社から刊行されているだけではなく、ぽむ企画らが企画協力に入っている。会社という仮面を外し、ああ、こんな人が設計しているんだという顔が見えるところが、この本の特徴だ。文章はまだ堅い部分が残っているけど、思い切った形式に拍手を送りたい。最後には、設計した学園の生徒代表の作文も収録している。
2009/05/31(日)(五十嵐太郎)
アーツチャレンジ2009
会期:2009/02/17~2009/03/01
愛知芸術文化センター[愛知県]
愛知芸術文化センターにて、公募の審査員をつとめたアーツチャレンジ2009の展覧会を見学し、力作揃いであることを実感した。唯一、正統的な美術教育を受けていない神のぞみは、目玉が無数に反復する、独自の神話的な世界を構築した。当初の予定から場所を変えたことで、さらに高密度な作品となり、不気味さを増している。smilo-fatの《WONDER BOOK》は、多くの協力と協賛を得て、ポップアップ絵本のなかに入ることができる夢のような作品を完成させた。ただのインスタレーションではなく、構造設計の助言も必要とした点において、これは「建築」と言えるだろう。実現へのプロセスと努力を評価したい。ほかのアートとは違い、実際に作品に触って、空間の体験を楽しめることから、子どもたちにも大人気の作品だった。伊藤孝紀研究室は、ビニール傘×電話ボックスのリサイクル・システムを提案し、会場の外の都市空間を巻き込んだことによって、社会的な関心を呼ぶプロジェクトになっている。柴田英里による円環状に並ぶ世界史の悪女たちの作品は、当初のファイルで示された以上に迫力のある空間を出現させることに成功した。
宮永春香や植松琢磨の完成度はやはり高い。美大や芸大を卒業し、本格的に羽ばたこうとしている実力派のアーティストが、平均的な出展者となっている。前回に入選した作家がイベントに訪れたり、その友人の和田典子が今回は入っている、あるいは一回目の飯田陽子に教えられて、田中香菜が応募していたことなど、アーツチャレンジそのものがつむぎだす、文脈も生まれる。前年はぎりぎりで落ちたが、荒木由香里は、バージョンアップした作品によって、彼女の世界を実現した。今後、アーツチャレンジを継続していけば、企業による現代美術のサポートが減っていくなかで、若手作家の登竜門としての認知度と存在感をより高め、さらにプロ志向の応募者が増えていくだろう。
写真上──神のぞみ《Sea Garden Passion Flowers》
写真下──smilo-fat《WONDER BOOK》
2009/02/22(日)(五十嵐太郎)
Tsunagaru
会期:2009/02/21~2009/03/21
静岡市クリエーター支援センター[静岡県]
小学校をリノベーションした静岡のCCCにて、公募の審査を担当したアート展を見る。瀧澤潔の「Tsunagaru」は、ほぐすと全長百km以上(?)になるというテグスを、空間の壁や天井におおうインスタレーションにより、かつて教室だった空間を変容させる。モノの境界がゆらぎ、自然光がさまざまな表情を見せながら、室内に侵入していく。アーティスト・トークも行なわれ、過去の作品との関係もよくわかった。削ったり、はったり、蝋や赤チンなどを使い、面の表層を操作し、そこでしか体験できない現象を発生させる手法が一貫している。代官山アドレスにて見学した大量のハンガーを使う瀧澤のインスタレーションもそうだったが、建築とのコラボレーションもおおいに可能な作風だ。やはり審査を担当したひとつ前の展示、甲元賢治の教室の時計のメディアアート的なインスタレーションがまだ撤去前だったおかげで、これも見ることができた。期待していた、ある種の空間の不気味さがちゃんと出ている。
関連URL=http://www.c-c-c.or.jp/schedule/program/2009/ncc_part2.html
写真上──瀧澤潔「Tsunagaru」
写真下──甲元賢治「Did You Remember What You Are Going to Do Tomorrow?」
2009/02/21(土)(五十嵐太郎)
駒田建築設計事務所《杉並の家》
[東京都]
竣工:2009年
大学の同期である駒田建築設計事務所の手がけた杉並の家を見る。かわいらしい5つのボックスを散りばめたプラン。中央の螺旋階段の部屋に入ると、外部のようだし、これを囲むそれぞれの部屋も反転して、外部空間のように感じられるのは、大きな開口のとり方による工夫が大きい。ボックスが相互に重なる部分のヴォリュームをかきとり、上下斜め方向にも大きく空間がのびる。箱に開けたさまざまな穴がつくる風景の見えや重なりが面白い。
2009/02/15(日)(五十嵐太郎)
長坂常/スキーマ建築計画《佐藤邸》リノベーション
[東京都]
竣工:2009年
奥沢にて、長坂常/スキーマ建築計画による佐藤邸リノベーション・プロジェクトのオープンハウスへ。中村塗装工業所の協力を得て、壁や床など、表層への色や素材による操作を通じて、場の雰囲気を変えたり、次々に表裏の感覚が反転するしかけを散りばめている。木造住宅の各階ともに間仕切りを外し、大きなワンルームとして再構成された。二階の中央には、発光する透明な箱のなかの白い設備ユニットを挿入し、バルコニーには屋上にのぼるはしごを付加している。古い部分があるからこそ、味が出るような知的な建築だ。その結果、どこにでもあるような家が、アート的な特質を獲得している。
2009/01/31(土)(五十嵐太郎)