artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

レム・コールハース:ア・カインド・オブ・アーキテクト(DVD)

[東京都]

レム・コールハースのドキュメンタリー映像。生い立ちから最新作の《CCTV》や建築以外の活動までを網羅的に紹介。異常に密度が高く、細々としたエフェクトなど映像としての手数も多く、情報量の高さ自体がコールハース的。コールハースを知らない人には教科書にもなるし、知っている人にとってもマニアックでレアな映像が多い。きっと売れるDVD。実際、ジャーナリストの頃に関わった映像作品や、シチュアシオニストのコンスタント・ニーベンホイスへのインタビューに影響されたことなどはあまり知らず、勉強になった。普通の建築ドキュメント映像に比べて変わっているのは、動線にそって空間体験を追体験させるような常識的な紹介が、ベルリンの《オランダ大使館》以外にはないところ。コールハースを通常の建築家として扱えないことは、タイトルにも現われている(一種の建築家)。浅田彰はコールハースをメディア・アーキテクトといったが、それでいえば、ル・コルビュジエ、アンドレア・パラディオの系譜につらなる。ル・コルビュジエは自らと近代建築を、メディアを利用してプロモートしたし、パラディオは、アルベルティと違い、建築書ではじめて自作を紹介した建築家。 ところで、同じアップリンクから、もう一枚今年発売される予定のコールハースに関するDVD『ハウス・ライフ』は、《ボルドーの住宅》を舞台に、家政婦の視線でひとつの建物を延々と撮った映像。このスロープをジグザグに上がると簡単だとか、ぶつぶつと家政婦の文句があったりする。ひとつの建物だけをくどいくらい紹介するという意味で、『ア・カインド・オブ・アーキテクト』とは真逆の視線だが、やはりいわゆる建築的な紹介作品ではなく、アーティスティック。

2008/12/24(水)(五十嵐太郎)

第8回文化資源学フォーラム

会期:12月20日

東京大学本郷キャンパス法文2号館2大教室[東京都]

東京大学の木下直之研究室が2001年から開催しているフォーラム。大学院の講義で、学生に半期で何でもよいと企画をやらせ、その組み立ても自由。8回目の今年は展覧会とも組み合わせ、高速道路や東京タワーなど高度経済成長期の東京景観を再考するということで、五十嵐の講演では『ALWAYS』批判などを行なった。東京タワーは1958年完成のテレビ塔で、ちょうど開業50周年を迎えた。たまたま建築と映画の本を書いていてなるほどと思ったのだが、50-60年代はまだ娯楽が少なく、、映画が全盛だった。そのころにテレビ放送が開始され、映画が衰退していく。だからテレビというメディアを象徴する東京タワーは、映画を衰退させたシンボルでもある。しかし一方で、東京タワーの入場者数は2000年には最盛期の半分にまで落ち込んでいた。それを復活させたのは『ALWAYS 三丁目の夕日』やリリー・フランキーの『東京タワー──オカンとボクと、時々、オトン』など、映画と小説であったのは皮肉だ。

2008/12/20(土)(五十嵐太郎)

田井幹夫/アーキテクト・カフェ《KEELS》オープンハウス

[東京都]

田井幹夫/アーキテクト・カフェによるコーポラティブ・ハウスのオープンハウスへいった。四谷の塔状住宅。構造・採光・通風・設備を担う複数の塔の周りにプランの異なる9つの住宅。ディベロッパーはアーキネット。赤いインテリアだったり、DJテーブルがあったり、それぞれの住戸に特徴があり、今後、居住者がお互いに訪問したら面白いだろうと思う。今回、オープンハウスで複数の住居を同時に見ることができたのは特殊な面白さだった。これも金比羅アートでの複数の客室を見る体験に似ている(オープンハウスは、通常、建築の竣工直後に一度きりしかない)。個人的には《KEELS》の横の、廃校となった小学校を利用した「東京おもちゃ美術館」も興味深かった。寄贈されたおもちゃなどを見ることができる。この元小学校の運動場があるために、《KEELS》には将来的にも視界が確保されている。

2008/12/20(土)(五十嵐太郎)

「都市を語る」(ヒルサイドカフェ連続セミナー)

会期:12月19日

ヒルサイドカフェ[東京都]

ヒルサイドライブラリーができたことがきっかけにはじまった、ヒルサイドカフェでの連続セミナー最終回。槇文彦、川本三郎、池内紀、植田実、篠山紀信、北川フラム、五十嵐太郎による「東京」のリレー形式のレクチャー。最終回は篠山×北川×五十嵐。篠山の発言が面白かった。懐かしい路地風景に興味はないとし、善悪を越えて東京が異様になっていることを楽しむという、超ポジティブな東京視線を提示した。バブル期の篠山の作品集『TOKYO NUDE』では、高崎正治の《結晶のいろ》という一度も使われずに破壊されることになったポストモダン建築のなかでモデルを撮影していた。篠山は「俺の写真に残るためにできた建物」といっていたが、確かに、スクラップ・アンド・ビルドの激しい東京においては、建築と東京の究極の関係を示唆していて興味深い。

2008/12/19日(金)(五十嵐太郎)

琴平プロジェクトこんぴらアート2008・虎丸社中

会期:12月12日~12月14日

老舗旅館「虎丸旅館」及び木造和風建築「琴平公会堂」[香川県]

美術家の彦坂尚嘉が金比羅で旅館を使ったアートイベントに参加するというので、そのトークに出席した。金比羅の上のほうでは鈴木了二の建築や、田窪恭治の襖絵があるなどハイ・アート的であるのに対し、今回は下のほうで違うかたちのイベントをやるという。ギャラリー・アルテという四国のギャラリーの女性ギャラリストが企画し、とら丸という旅館の各部屋に展示。宿泊施設をアートの展示に使うのは、東京のアグネスホテル、大阪の堂島ホテルなどでもあり、ベッドや浴室にアートがあったり、少しずつ間取りの違う同じフロアの部屋をすべて見たりする機会は、修学旅行でもないとできない体験。単純にアートがどうこういうより経験として面白い。 今回はその旅館版。木造和風の旅館で、日本の旅館に典型的な、でたらめな増改築がされたプラン。例えば2階に上がるのに四カ所くらい変なところに階段がついている。作家のなかにはその特性をうまく使う人と使わない人がいて、彦坂さんは結構うまく使っていた。二つの会場での展示があり、客室では天井にナスやトマトのオブジェ。彼の初期の作品はフロアー・イベントという床の作品だっただけに、面白い展開。他の作家と違い、床を占有しておらず、そういう意味だと興行的にもあり得る。もうひとつ公会堂でやっていたのは、皇居美術館空想の展開。ちょっとした体育館くらいの広さの空間の真ん中に、存在感のある皇居美術館の模型が置かれる。またその延長である帝国美術館空想も一部紹介。隣に糸崎公朗のフォトモの作品があり、壮大でグローバルな展開の彦坂さんと、ミクロな観察眼で虫や町並みの観察を行なう糸崎さんの展示が対照的だった。

2008/12/14(日)(五十嵐太郎)