artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
ライオネル・ ファイニンガー展
[愛知県/宮城県]
すでに名古屋の展覧会で一度見ていたが、宮城に巡回したものを再び見る。ここにはクレーやカンディンスキーなど、ドイツ近代を扱う学芸員がいるので、ファイニンガーが来るのは順当といえる。ファイニンガーは一般的に、バウハウスの共同宣言の挿絵で光の大聖堂を版画で描いたことで知られ、愛知の常設でも展示されていたが、僕もそれくらいしか知らなかった。近代美術史の位置づけとしては、キュビスムの影響を受けた画家の一人なのだろう。彼は経歴が面白い。アメリカからドイツに行き、またアメリカに戻っている。もともとは風刺漫画を描いていて、その時から漫画的な空間のねじ曲げ方やデフォルメなど、ある種の抽象化の感覚はあった。ヨーロッパに移住し、キュビスムやドイツの近代美術、建築に影響を受け、バウハウスにも関わることになる。バウハウスの中世的な共同体志向は、彼の大聖堂の絵とも連動する。面白いことに、途中から橋やローマ時代の水道橋など、土木工事や建築を描くことが好きになり、人間を描かなくなる。都市や建築の風景が多くなり、画面が複数の光の層に分解して、クリスタル的な面となり、世界を再構成する。直接的な影響はないだろうが、ザハ・ハディドが香港のザ・ピークというコンペで全く違った形で街を極度に抽象化して表象しており、それと同じ意味で極めて建築的。
ハレというドイツの街から依頼を受け、しばらく大聖堂を描いているが、そのときは完全に独特の抽象世界である。彼がまだ見ぬニューヨークの摩天楼を抽象化したかのようだ。つまり、ファイニンガーはヨーロッパにおいて古い建物を見ながら、ヒュー・フェリス的な「明日のメトロポリス」を描いたといえる。退廃芸術だとされ、ナチスに追われた彼は、結局アメリカに戻り、無名な画家に戻ってしまう。ファイニンガーはクリスト同様、補助線の引き方がうまく、海に浮かぶ船の補助線をうまく描いたりしている。晩年、ニューヨークの絵などを描いたが、ハレの街を描いた30年代の方がよい作品である。摩天楼が出現する前にヨーロッパに渡り、アメリカに帰ってきたら摩天楼が出来ていた。
2009/01/21(水)(五十嵐太郎)
Balkanology - New Architecture and Urban Phenomena in South Eastern Europe
会期:2008/10/4~2009/1/4
スイス建築博物館Schweizerisches Architekturmuseum / Swiss Architecture Museum[スイス、バーゼル]
展覧会サイト:http://www.sam-basel.org/index.php?page=balkanology_e
新年にスイスに行った時、バーゼルの建築博物館で、ちょうど「バルカノロジー 東南ヨーロッパにおける新しい建築と都市的現象」展をやっていた。これは、バルカン半島の建築を扱ったもの。面白かったのは、メイド・イン・トーキョーやアトリエ・ワンのような、同時代、同世代的な図面の表現があったこと。国の背景は日本とは全然違うが、わりとポップなものもあり、さまざまな形の現代の都市フィールドワークを、いわゆる真面目でお堅い学術調査ではない表現方法で見せていたことが印象的だった。
2009/01/04(日)(五十嵐太郎)
Venice - From Canaletto and Turner to Monet
会期:2008/9/28~2009/2/15
バイエラー財団美術館[Beyeler Foundation Museum][スイス、バーゼル]
バーゼル郊外の、レンゾ・ピアノの設計によるバイエラー美術館で、ヴェネツィアを描いたさまざまな絵画を展示するもの。なお、この美術館に来る人たちは、かなり裕福そうな人が多かった。ヴェネツィアは昔から絵によく描かれてきていたし、そもそも写真がなかった当時は、絵葉書など土産物としての価値も持っていた。ここでは、古くはカナレットから印象派のモネを経由し、さまざまな画家がどのようにヴェネツィアを描いたかを一覧できるような展示になっている。同じ街だが人によってまったく描き方が異なる。例えば、ルドンがヴェネツィアを描いていることは知らなかった。よく見るヴェネツィアの風景とは全然違って、彼らしい筆致の暗い画風になっていて面白かった。また、地階ではVera LutterとDavid Claerboutという二人の現代写真家によるヴェネツィアも特別に展示されていた。とくに建築写真をやっている作家がすごく面白かった。部屋の中に入ると真っ暗な暗室で、ごくわずかな光量だけがある。ジェームズ・タレル的なことをしており、最初は真っ暗だが、じっといると目が慣れてきて、だんだん夜のヴェネツィアの写真が浮かび上がってくるという展示。これはなかなか面白かった
2009/01/03(土)(五十嵐太郎)
隈研吾《京都造形芸術大学至誠館》
[京都府]
元旦の午前から建築ツアー。新作では、隈さんの《京都造形芸術大学至誠館》という新棟を見る。休みなので近づくことはできなかったが、ここでも素材を記号的に扱いながら、ルーバー状に並べていくのは、必勝パターンになっている。地下には、ヤノベケンジさんらが活用する工房、ウルトラファクトリーがある。
2009/01/01(木)(五十嵐太郎)
森田慶一《楽友会館》ほか
[京都府]
大晦日に京都学派の建築ツアー。京都大学とその周辺に点在する、森田慶一、増田友也ほかによる、時流とは違う系譜をつくる濃密な作品群を鑑賞。《湯川記念館》など、森田が古典感覚を維持したオーギュスト・ペレのモダニズムに傾倒していたことがよくわかり興味深い。《楽友会館》はチェコ・キュビスム風の角ばった柱とロマンチックなカーブが共存、《農学部の正門》は微妙な曲線のアーチをもち、分離派の名残も感じる。
2008/12/31(水)(五十嵐太郎)