artscapeレビュー

アーツチャレンジ2009

2009年03月15日号

会期:2009/02/17~2009/03/01

愛知芸術文化センター[愛知県]

愛知芸術文化センターにて、公募の審査員をつとめたアーツチャレンジ2009の展覧会を見学し、力作揃いであることを実感した。唯一、正統的な美術教育を受けていない神のぞみは、目玉が無数に反復する、独自の神話的な世界を構築した。当初の予定から場所を変えたことで、さらに高密度な作品となり、不気味さを増している。smilo-fatの《WONDER BOOK》は、多くの協力と協賛を得て、ポップアップ絵本のなかに入ることができる夢のような作品を完成させた。ただのインスタレーションではなく、構造設計の助言も必要とした点において、これは「建築」と言えるだろう。実現へのプロセスと努力を評価したい。ほかのアートとは違い、実際に作品に触って、空間の体験を楽しめることから、子どもたちにも大人気の作品だった。伊藤孝紀研究室は、ビニール傘×電話ボックスのリサイクル・システムを提案し、会場の外の都市空間を巻き込んだことによって、社会的な関心を呼ぶプロジェクトになっている。柴田英里による円環状に並ぶ世界史の悪女たちの作品は、当初のファイルで示された以上に迫力のある空間を出現させることに成功した。
宮永春香や植松琢磨の完成度はやはり高い。美大や芸大を卒業し、本格的に羽ばたこうとしている実力派のアーティストが、平均的な出展者となっている。前回に入選した作家がイベントに訪れたり、その友人の和田典子が今回は入っている、あるいは一回目の飯田陽子に教えられて、田中香菜が応募していたことなど、アーツチャレンジそのものがつむぎだす、文脈も生まれる。前年はぎりぎりで落ちたが、荒木由香里は、バージョンアップした作品によって、彼女の世界を実現した。今後、アーツチャレンジを継続していけば、企業による現代美術のサポートが減っていくなかで、若手作家の登竜門としての認知度と存在感をより高め、さらにプロ志向の応募者が増えていくだろう。

写真上──神のぞみ《Sea Garden Passion Flowers》
写真下──smilo-fat《WONDER BOOK》

2009/02/22(日)(五十嵐太郎)

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