artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

松本淳『マイレア邸/アルヴァー・アールト』

発行所:東京書籍

発行日:2009年8月8日

20世紀名作住宅シリーズの第四弾である。東工大スクールが得意とする抽象化された構成論ではすくいとれない、アールト建築の複雑な魅力から研究を始めたという松本淳が執筆したものだ。ディミトリー・ポルフィリオスが論じて有名になった折衷的なコラージュという評価に追従するのではなく、新しく継ぎ目がないハイブリッドとしてのマイレア邸論を展開している。後半は、アールトの各作品を時系列にそって紹介している。

2009/08/31(月)(五十嵐太郎)

遠藤秀平 編『ネクストアーキテクト2 カケル建築家』

発行所:学芸出版社

発行日:2009年8月10日

建築家、構造家、計画者らが原風景を語るシリーズの第二弾である。第一弾は『ネクストアーキテクト─8人はこうして建築家になった』だったから、今回は職種も広がった。筆者も卒業設計を語るシリーズを彰国社で企画したけれども、これはさらに幼少の時代に触れているとことが大きな特徴である。第二弾もやはり、小野田泰明、曽我部昌史、千葉学など、よく知っているメンバーであったが、こんな時代を過ごしていたのかと初めて知ることが多い。まだ何者でもない頃に、彼らは何をしていたのかが赤裸々に語られる。そうした意味で、学生が本書を読むことをすすめたい。

2009/08/31(月)(五十嵐太郎)

長谷川一『アトラクションの日常』

発行所:河出書房新社

発行日:2009年7月7日

本書は、「揺られる」や「流される」など、10の動詞を掲げながら、われわれの社会がアトラクション化し、テーマパークとなっていく状況を論じたもの。アトラクションとは、出来事(イベント)に参加させられる工学的な反復運動である。近代以降の身体は、さまざまな日常の場面で、アトラクションに包まれている。駅、マーケット、コンビニ、鉄道や客船、そして舞台。機械と身体が縫合される空間の考察の数々は、ビルディングタイプ論とも接合し、建築の分野に対しても多くの示唆を与えてくれる。最終章は、「夢みる」ことさえも、アトラクション化されていると指摘し、「現在」をとりかえすことを唱えている。

2009/08/31(月)(五十嵐太郎)

『ka 華』33号

東工大が制作している建築学科の年報である。現在、いろいろな大学でこうした年報を制作するようになった。個性という点では東京芸大の『空間』も興味深いが、内容の密度では、おそらくこれにまさるものはないだろう。一年間の各課題の紹介とレビューはもちろん、茶谷正洋先生の巻頭記事、ニュース・投稿、そして特集「太陽と建築」まである(ときどき英文サマリーも)。毎号毎号、総力戦による充実ぶりには、頭が下がる思いだ。博士課程の学生が中心になって編集したようだが、学生の層の厚さを感じさせる。筆者も東北大にて『トンチク』を制作しているが、最初に考えたのは、簡単に『ka』を越えることはできないから、まったく違うスタイルをとることだった。予算がほとんどないなかで、いかに仕事量を減らしながら、最大限の効果を生むか、である。つまり、『ka』は建築系の大学の年報にとって指標というべき存在になっている。

2009/07/31(金)(五十嵐太郎)

藤森照信『21世紀建築魂』

発行所:INAX出版

発行日:2009年6月30日

なんとも力強いシリーズの登場だ。大御所による若手建築家とのコラボレーション企画によって21世紀の建築のあり方を占う。その第一弾となる本書では、藤森がアトリエ・ワン、阿部仁史、五十嵐淳、三分一博志、手塚建築研究所らと対談しているが、彼らはいずれも有名かつ人気の布陣である。藤森らしさがもっともよく出ているのは、大工であり、ダンサーでもある岡啓輔の起用だろう。2003年のSDレビューで藤森が彼の70cmずつコンクリートを打設する住宅のセルフ・ビルドのプロジェクトを選んだときも、なるほどと思ったのだが、今回はじっくりと二人の体感的な建築論の会話が楽しめる。

2009/07/31(金)(五十嵐太郎)