artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

Query Cruise Vol.1

会期:2008/11~2009/3

RAD room[京都府]

住所:京都市中京区河原町三条上がる一筋目東入る恵比須町531-13 3F

京都の真ん中、繁華街の近くに、京都工芸繊維大学を卒業したメンバーが、RADというグループをつくり、共同で所有している場所がある。下が中華の定食屋になっていて、三階に上ると設計事務所兼イベントスペースとなっている。Qeury cruiseは彼らが企画した連続イベントで、このスペースを利用して、五十嵐太郎、南後由和(社会学)、大屋雄裕(法哲学)の3人が5回ずつレクチャーをするもの。まだ始まったばかりだが、京都発なので、頑張ってほしい。彼らは京都工繊の時に年一度くらい同人誌をつくって建築批評などを寄せていた。今後の活躍が期待される。また、そこに出入りしている連中で、景観を配慮したためにヘンチクリンになってしまったメイド・イン・キョウト的な建築をコレクションしている人たちもいて、いずれ展示や書籍化されるだろう。

2008/12/12(金)(五十嵐太郎)

ネオ・トロピカリア:ブラジルの創造力

会期:10月22日~1月12日

東京都現代美術館[東京都]

長谷川祐子さんとの対談があり、その直前に展覧会を見る。2004年、国立近代美術館でもブラジルをテーマとしたボディ・ノスタルジア展が開催されたが、今回はより若手にも、そして建築系も積極的に紹介している。いまだ日本には、建築の専門的な美術館がないことを考えると、美術館において美術と建築を同等に扱う試みは貴重だ。リジア・クラークの造形はやはり美しいし、リナ・ボ・バルディの知られざる建築プロジェクトも楽しめる。

2008/12/10(水)(五十嵐太郎)

高嶺格「大きな休息」

会期:11月29日~12月24日

せんだいメディアテーク[宮城県]

せんだいメディアテーク内で開催。廃材を利用し、小屋や住宅のパーツを再構成したインスタレーション。制作は東北工業大学の槻橋修研究室が協力し、阿部仁史アトリエもある卸町の倉庫を利用した。導入部分までが無料で、メインの部分は盲人の人に案内してもらうという形式。それですぐに思い出したのが、数年前からやっていたダイアログ・イン・ザ・ダークというイベントのことで、目が見える人が闇のなかを30分か1時間くらい、闇を熟知した盲人の人に案内してもらい、最後にバーカウンターで飲み物を出してもらうという、ある種感動型のイベント。それを狙っていると思っていたら、高嶺展ではまったく異なり、会場は明るく、全部見える。自分が見えていて、目の見えない人に案内されるという、不思議な体験をした。触ったり、音を出したり、においを出したり、盲人はそういうことで説明する。この状態はいったい何なのか? こちらは全部見えているので、その人と話をしながら、目が見えない人はどのように感じているのであろうかと想像する。ダイアログ・イン・ザ・ダークでは、強制的に目が見える人を目が見えない人に同化させるのに対して、こちらは、「自分が、案内している相手がいったいどのように空間を感じているのだろう?」、少なくとも僕は、そう想像させられた。 入口のところで、高嶺さんの奥さんは在日の何世かで、その結婚式を通じて日本にいる朝鮮民族が日本をどのように感じているかということを考えたと触れられていたが、両者のテーマは共通する。一方は民族、一方は視覚と空間の問題だけど、他者がいかに感じているかを感じようという点は同じだ。高嶺さん自身もこの展示が何だったのかと悩んでいた。それでいえば、一昨年、宮崎県にある壊されかけていた菊竹清訓の《都城市民会館》に行った時の経験も挙げておきたい。高嶺さんが新聞のコラムで、なぜこの建物は素晴らしいかということを、メタボリズムの傑作だからとか、なんとか賞をとったからとかではなく、「この建物はなぜこういう変な形をしているのであろうということを疑問に思わせるからこそ面白い」という説明をしているのを見て、なるほどと思った。「クエスチョンを与える、だからこの建物は素晴らしいのだ」と。今回の高嶺さんの展示にも、それに近いと思えるものがあった。

2008/12/07(日)(五十嵐太郎)

ヴィルヘルム・ハンマースホイ展

会期:9月30日~12月7日

国立西洋美術館[東京都]

建築の側から見ても興味深い展示。特に面白いのは、象徴主義的な絵からスタートしたハンマースホイが、晩年のある時期から、ストランゲーゼ30番地にある彼の自宅をばかりを、ひたすら反復して描き出したところ。似たような構図の絵が何十枚もあり、半開きの扉やつねに後ろ姿で現われる妻イーダの姿、時にピアノや暖房器具などが挿入される。展覧会場では家の間取りも紹介され、どの場所でどの絵を描いたかがわかる。ただのリアリズムではなく、じつは家具やインテリアが作品によって変形したり、位置を変えている。。窓や開口部のモチーフを考えるのにも参考になりそうだ。

2008/12/04(木)(五十嵐太郎)