artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
ジャポニスム2018 「MANGA⇔TOKYO」/「縄文─日本における美の誕生」
「MANGA⇔TOKYO」
会期:2018/11/29〜2018/12/30
ラ・ヴィレット[パリ]
「縄文−日本における美の誕生」
会期:2018/10/17〜2018/12/08
パリ日本文化会館 [パリ]
ラヴィレット公園のホールで開催された「MANGA⇔TOKYO」展は、エントランスで、2つのミュージアムショップ(左右に設置されたリトル秋葉原と池袋をイメージしたリトル乙女ロード)の間を通ると(小店舗のオペレーションを2つに分けるのは大変だろう)、超巨大な東京の模型と各地を舞台とした大スクリーンの映像が出迎える。てっきりロッテルダムの「トータルスケープに向けて」展(建築博物館、2000〜2001)のときのように、森ビルが制作していた模型を今回も借りていると思いきや、そうではない。もっと大きい模型を新規に制作し、来場者の目を釘付けにしていた。おそらく「パリと映画」でもこうした展示は可能だろうが、「漫画と特撮」で成立するところが東京ならではだろう。その後、展示は2階に登って、都市の破壊、江戸、近現代の歴史、東京タワーと新都庁舎、日常、場所とキャラなどのテーマと続く。ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展2004の日本館で提示した仮説「おたく:人格=空間=都市」を全東京に広げ、森川嘉一郎節が久しぶりに全開だった。なお、12月1日には坂茂が設計した《ラ・セーヌ・ミュージカル》で初音ミクのコンサートも開催された。
ヴェネツィア・ビエンナーレでおたくを展示した2年後、日本館に藤森照信が縄文建築団を引き連れ、世界に振幅の広さを見せることになったが、パリのジャポニスム2018でもちょうど「縄文」展(パリ日本文化会館)を開催していたことは興味深い。これは東京国立博物館の「縄文─1万年の美の鼓動」展(2018)を再構成したもので、パリでは20年ぶりの縄文展になるという。最初の焼き物・容器エリアで十日町市蔵の大きな火焔式土器が出迎え、軸線の強い会場構成のもと、第二の土偶エリアでも国宝が5つ並び、最後は日用品などを紹介する(東北大の所蔵品もあった)。重要文化財も33件が出品され、レプリカを触れるコーナーも設け、コンパクトながら、縄文の魅力を十分に伝える内容だった。なお、パリとの関係で思い出される、縄文土器の美の発見者である岡本太郎については、映像で紹介していた。
2018/12/02(日)(五十嵐太郎)
原爆をめぐる表象──「丸木位里・俊 —《原爆の図》をよむ」/ジョプノ・ドル『30世紀』/「アール・ブリュット ジャポネⅡ」
「丸木位里・俊 —《原爆の図》をよむ」
会期:2018/09/08〜2018/11/25
広島市現代美術館[広島県]
フェスティバル/トーキョー18 ジョプノ・ドル『30世紀』
会期:2018/11/03〜2018/11/04
東京芸術劇場[東京都]
「アール・ブリュット ジャポネⅡ」
会期:2018/09/08〜2019/03/10
アル・サン・ピエール美術館[パリ]
異なるジャンル、異なる場所において、原爆をめぐる表象に出会う機会が続いた。ひとつは11月25日に訪れた「丸木位里・俊ー《原爆の図》をよむ」展(広島市現代美術館)である。丸木夫妻による有名な「原爆の図」の5部作とその再制作版を横に並べながら、湾曲したカーブのある地下の大空間を使い切る迫力の展示だった。両者を比較すると、構成は同じだが、オリジナルに対し、ドラマティックな効果を加えたことがよくわかる。もちろん、「原爆の図」の展示がハイライトなのだが、この作品が生まれるまでの経緯と各地を巡回したその後の展開を紹介していたのも興味深い。すなわち、洋画家の俊と日本画家の位里が出会い、原爆という世界史的な惨事を作品化したという背景である。とくに俊が単身でロシアや南洋に渡ったアクティブな女性だったことに驚かされた。また二人が協同した作品において、彼女がはたした役割がかなり大きいように思われた。
11月4日に観劇したジョプノ・ドル「30世紀」(東京芸術劇場)は、すでに100回以上演じられているヒロシマ、ナガサキ、第五福竜丸の物語であり、同時に危険な世界とアジアの情勢を告発するものだった。近年のフェスティバル/トーキョーはアジアの作品を積極的に紹介しているが、シニカルな「リアリズム」によって、いまや日本でさえ風化している悲劇をバングラデシュの劇団が突きつける。とくに第五福竜丸の事件までとりあげているのはめずらしいだろう。また新聞紙とストールを床に敷いただけのシンプルな舞台も印象的だった。今回が日本での初演らしいが、いつか広島や長崎でも行なわれるかもしれない。そして12月2日、パリのサクレ・クール寺院の足元にあるアル・サン・ピエール美術館の「アール・ブリュット ジャポネⅡ」でも思いがけない遭遇があった。アール・ブリュットは確かにインパクトをもつが、内面の探求が強く、社会や政治との関係が稀薄なのが以前から気になっていた。しかし、本展では、広島の被爆体験をした二人(廣中正樹と辛木行夫)が、高齢になってから記憶をもとに描いた作品があり、虚をつかれた。
2018/12/02(日)(五十嵐太郎)
ジャポニスム2018 「安藤忠雄 挑戦」
会期:2018/10/10~2018/12/31
ポンピドゥー・センター[パリ]
パリで開催されている安藤忠雄展は、入場制限がかかるほどの盛況ぶりで、室内の行列でしばらく待ってからようやく展示を見ることができた。会場のポンピドゥー・センターに近い、パリの中心部にもうすぐ彼の新作となる美術館《ブルス・ド・コメルス》が登場するためだろうか。日本だけではなく、海外における安藤人気の凄さを思い知る。本展は話題になった2017年の新国立美術館の個展を巡回したものである。ゆえに、その内容をおおむね踏襲し、原型/都市/風景/歴史といった構成になっているが、六本木と比べて、会場の面積が少し小さい分、濃密に作品と向きあう(なお、パリでは写真撮影がOK)。またキュレーションを担当したフレデリック・ミゲルーによる安藤へのインタビューの映像が追加されていた。なお、原寸で再現された《光の教会》は、さすがにそのままもっていくことができず、ポンピドゥー・センターでは十字の壁だけが屋外に設置された。全体を再現することができなかったのは、床の荷重制限もあったらしい。
室内の展示はオーソドックスである。最初のセクションは、若き日の安藤の旅、彼が描いたスケッチや撮影した写真、都市ゲリラ住居のプロジェクト、そして事務所や住宅を紹介している。個別の作品に対する説明はあまりなく、むしろモダニズムを基盤とするコンクリートの幾何学によって、言葉がなくとも建築の魅力を伝えていた。すなわち、かたちそのものであり、周辺環境の細かい解読や近隣のコミュニティがどうだ、といったデザインとは違う。もっとも、最後のセクションでは、歴史との対話を重視し、ヨーロッパにおけるリノベーションのプロジェクトがメインとなる。ヴェネツィアの《プンタ・デラ・ドガーナ》やロンドンの《テートモダン》のコンペ案などだ。そしてラストは、やはり《ブルス・ド・コメルス》の大きな模型を置き、パリの未来像に期待を抱かせる。
2018/12/01(土)(五十嵐太郎)
ジャポニスム2018 「明治」/「ジャポニスムの150年」
「明治」
会期:2018/10/17〜2019/01/14
ギメ東洋美術館[パリ]
「ジャポニスムの150年」
会期:2018/11/15〜2019/03/03
装飾美術館[パリ]
デモで炎上中のパリでは、シャンゼリゼに沿ったメトロの1号線を中心に複数の主要な駅が閉鎖されていたため、自由に乗り換えができず、パズルのように面倒な移動になったが、ジャポニスム2018に関連した展示をいくつかまわった。
明治150年を記念したギメ東洋美術館の「明治」展は、帝国と天皇の肖像に始まり、超絶的な技術による工芸復興、そして海外に影響を与えたジャポニスムの展開をたどる。最後のセクションでは、あえてキャプションを別の場所に置き、日本と西欧を混ぜて、来場者に考えさせる展示が行なわれていた。装飾過剰な作品など、おそらく今の日本人からは中国風に感じられるものが多いだろう。なお、展示はギメとロンドンのコレクションで構成されており、これまで低く評価された明治時代の工芸を再評価するものだった。
装飾美術館はデモが行進するリヴォリ通り側のエントランスは閉鎖されていたが、反対側の中庭からは入場することができた。「ジャポニスムの150年」展は、「発見者」(同館における日本紹介の歴史、万博の展示や収集家のコレクション)「自然」「時間」「動き」「革新」(三宅一生、田中一光、福田繁雄、倉俣史朗、コム・デ・ギャルソンなど)という5つのテーマによって、近現代の日本のデザイン史(工芸、家具、図案、衣服)を紹介する。空間にゆとりをもって展示するアートと違い、多ジャンルかつ膨大な数が出品されていたが、これを見事にさばくシステムを実現したのが、藤本壮介の会場構成だった。グリッド、沿った矩形、円、掛け軸風、一反木綿風など、テーマごとに什器のデザインを変え、次は何がくるのかと目を楽しませてくれた。
ギメ東洋美術館と装飾美術館で、日本のデザイン展を同時に開催していたのは興味深い。前者は明治時代に日本が海外に輸出して外貨を稼いだ装飾的な工芸であるのに対し、後者の企画は日本側からもキュレーターが参加し、今の日本が西洋に見てほしいクールなデザインだからだ。両者の違いから、裏返しのジャポニスムを読みとることもできるだろう。
2018/12/01(土)(五十嵐太郎)
田根剛「未来の記憶 Archaeology of the Future─Digging & Building」/田根剛「未来の記憶 Archaeology of the Future─Search & Research」
「田根剛|未来の記憶 Archaeology of the Future ─ Search & Research」
会期:2018/10/18〜2018/12/23
TOTOギャラリー・間[東京都]
「田根剛|未来の記憶 Archaeology of the Future ─ Digging & Building」
会期:2018/10/19〜2018/12/24
東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]
現在、もっともメディアに注目されている若手建築家の個展が開催された。しかも、ギャラリー間と東京オペラシティ アートギャラリーの2カ所で同時開催というのは、巨匠ですら過去に例がない。なるほど、コンペで勝利した巨大なプロジェクトであるエストニアの国立博物館をすでに実現しているが(あまり訪れない国であり、筆者も未見)、日本国内ではまだ大型の建築を実現していないことを考慮すれば、彼に対する期待の高さがうかがえるだろう(パリに事務所を構えているため、外タレ枠なのかもしれない)。さらに今回は、2カ所の展覧会を同じタイトルで揃えている。
せっかくなので、同日に2会場をまわることにした。ギャラリー間の「未来の記憶」展では、本人が自ら考古学の比喩を使っているように、3階の会場の内外に博物館の収蔵庫を想起させるような棚がずらりと並ぶ。そこにところ狭しと設置されているのは、大量のスタディ模型やアイデアのもとである。2会場を同時に埋めるのだから、さすがに展示の密度が薄くなるのでは? という懸念は、杞憂に終わった。なお、田根が参照する建築外のイメージ群は、いまどきのものというよりも、筆者の世代には懐かしい感じがある。そして床に座ることができる4階では、一転して大きな映像で各作品を紹介する。
続けて東京オペラシティ アートギャラリーへ。大空間を生かして、まず古材のインスタレーションが出迎え、次に驚異の部屋のごとく、壁や床を埋め尽くした参照イメージの宇宙が広がる。そして映像の部屋を挟み、大型の模型によって、新国立競技場のコンペ案である「古墳スタジアム」や「(仮称)弘前市芸術文化施設」のコンペ勝利案など、7つの彼の主要作を紹介する。とくに軍用滑走路の跡地である記憶を継承した《エストニア国立博物館》の巨大な模型は、空間インスタレーションの規模をもつ。なお、展示の白眉としては、藤井光が撮影した《エストニア国立博物館》のドキュメント映像が挙げられる。これが美術空間に緊張感を与えていた。
2018/11/24(土)(五十嵐太郎)