artscapeレビュー

木村覚のレビュー/プレビュー

Port B「雲。家。」

会期:2009/03/04~2009/03/07

にしすがも創造舎[東京都]

エルフリーデ・イェリネクの同名戯曲の上演。まったく予備知識なしに見た。固まったワンピースが5枚吊ってあり、床には墨で文字が敷き詰められ、舞台奥には三階だての構築物が薄いスクリーンの背後に建っている。その構築物の上を唯一の登場人物(暁子猫)が歩きながら、吊ってあったのと同様のワンピースを纏って「私は家にいる……」などと独り言を呟いている。語りの内容には現実味がない。「大地」「祖国」「外部」「他者」「わたしたち」などの言葉が繰り返され、「ゲルマン」という語も出てくる、ドイツ哲学のテクストから引用されたものに聞こえる。なぜドイツ?と思うと、日本にいるアジアの留学生のインタビューや、公演会場の近くにある池袋サンシャイン60に来た若者に向け「以前ここに何が建っていたのか」と質問する映像が差し挟まれる。処刑場があったらしい。「アウシュビッツ」に通底するなにかを日本の過去から引き出そうということなのだろうか。90分ほどの公演時間中、暁子猫は、ひとり語りを淀みなく続けた。
Port B:http://portb.net/

2009/03/04(水)(木村覚)

ホナガヨウコ×サンガツ『たたきのめすように見るんだね君は』(DVD、WEATHER/HEADZ、2009)

昨年6月に恵比寿siteで上演した同名作品をDVD化。「音体パフォーマンス」と称して独自の音や言葉とダンスとの繋がりを模索していたホナガサンガツとのコラボレーションで見せたのは、きわめて緻密なシンクロだった。ダンサーと音楽家のコラボというと、その日限りの即興がほとんどで、当たり障りのないところで接触するか、バトルにもならずディスコミュニケーションに陥る可能性が非常に高い。本作の素晴らしさは、そうした凡庸さを回避して、ときにダンスが主となり演奏が振りに音をあてがったかと思えば、ときにその正反対を行ないもする絡み合いの丁寧さにある。聴きながら踊るダンサー、見ながら演奏するプレイヤー。聴くことと踊ること、見ることと演奏することが緊張感をともなって交わる。サンガツの演奏、親近感のあるホナガのダンスそれぞれが魅力的なのは言うまでもないのだけれど、両者がひとつの塊となり舞台空間に渦をつくる様は奇跡的でさえある。そうしたパフォーマンスを映像作品として見ごたえのあるものに仕立て上げたという点でも、本作の価値は大きい。

2009/02/21(土)(木村覚)

大駱駝艦「シンフォニー・M」

会期:2009/02/19~2009/02/22

世田谷パブリックシアター[東京都]

壺中天という名の弟子たちが周囲を固めてはいるものの、本作は麿赤兒のソロというのが近い。麿の魅力はプレゼンスにある。大きな顔をさらに大きな髪が際だたせる。なにかをしていなくとも存在感に圧倒される。存在感だけが存在しているような佇まいで、しかし振りはきわめてミニマル、ゆったりとした反復的動作が続く。動きの繋がりに生じる間とかリズムより、存在感が舞台を駆動させる。ダンスというより演劇的。弟子たちが懐中電灯だけで麿を照らしたり、巨大な白い洞窟のごときセットが登場したり、仕掛けのアイディアは豊かな一方、パフォーマーのなかからはっとするズレは起こらない。その分強調される演劇性は、白い洞窟の奥へ落下(?)するラストシーンで、赤子のように泣き叫ぶ麿とその周りを囲む白塗りの若いダンサーたちとの関係を際だたせる。とくに、カーテンコールで弟子のひとりが麿に観客への挨拶を指示するあたりは、この舞踏団それ自体を演劇化しているように見えた。

2009/02/21(土)(木村覚)

カンパニー マリー・シュイナール「オルフェウス&エウリディケ」

会期:2009/02/06~2009/02/08

北千住・シアター1010[東京都]

10人ほどのダンサーたちは、男女とも黄金のニップレスのみの裸身。真っ白な舞台に白い肌が際だつ。奇声を拾うマイクとか、身体を拡張させる衣装・オブジェとか、エロティックかつユーモラスきわまりないポーズとか、シュイナールらしい仕掛けは、とてもかわいく、ポップで、美しい。とはいえ、彼女の最大の魅力はそうした収まりのよいポイントではなく、観客を圧倒するフィジカルなプレゼンスにあるといいたい。中盤、長尺のラッパを轟音で吹き鳴らし、全員がバラバラで狂ったように踊りまたポーズをひたすら決め続けるところは、紅潮する肌とか揺れる胸など、目の前で躍動する身体の激烈さに、ひたすら高揚してしまった。「揚がる」感覚へ向けてすべての要素が結集している。そうした戦略に、舞台表現としてのダンスの今日的な指針が示されている気がした。
カンパニー マリー・シュイナール:http://www.mariechouinard.com/

2009/02/08(日)(木村覚)

おいッ!パーティやんぞ!

会期:2009/02/06

六本木・buLLEt's[東京都]

ぼくはこの分野の状況を評する知識も経験も乏しい。けれども、あまりに面白かったのでメモしておきたいのだ。近年、J-COREなどと呼ばれる音楽の一傾向がある。アニソンやJ-POPを大量に混入させたハッピーハードコアな(ナードコアに通じる)テクノ。日本人的で「同人音楽」的な音楽(DJテクノウチほか『読む音楽』を参照した)。と書いてみても、まだ自分のなかでよく咀嚼できていないのだけれど、オタク的、テクノ的、ハウス的な要素が混在する(ただしそこにアートは含まれない)様が、ともかく痛快だったのだ。クラブイベントなのでDJプレイとLIVEと称するパフォーマティヴな演奏が交替で続く。神戸から来たtofubeatsはWIRE08に出演したことで名の知れた高校生DJ。Perfumeをポップに破壊したサウンドに、フロアは機敏に反応する(9.5割が男子、その5割は眼鏡)。DJテクノウチのプレイが機材のトラブルで5分と聴けなかったのは残念。CDRやパジャマパーティーズの真摯に自分を否定したり肯定したりするパフォーマンスはなかなか感動的だった。オタクのオタク性は自分のなかの「好き」を大事にするところにある。高等なアートの自己批判性より、シャイで率直な彼らの振る舞いこそ、今後いろいろなものを繋ぎ束ねてゆく力となるのではないか、と思わされた。六本木buLLEt'sという会場も面白くて、お金を払うと客は入口で靴を脱ぎ赤いカーペットの上で踊るのだった。友達の家に居るようなコージーな雰囲気がイベントのあり方とぴったりあっていた。

2009/02/06(金)(木村覚)