artscapeレビュー

Port B「雲。家。」

2009年04月01日号

会期:2009/03/04~2009/03/07

にしすがも創造舎[東京都]

エルフリーデ・イェリネクの同名戯曲の上演。まったく予備知識なしに見た。固まったワンピースが5枚吊ってあり、床には墨で文字が敷き詰められ、舞台奥には三階だての構築物が薄いスクリーンの背後に建っている。その構築物の上を唯一の登場人物(暁子猫)が歩きながら、吊ってあったのと同様のワンピースを纏って「私は家にいる……」などと独り言を呟いている。語りの内容には現実味がない。「大地」「祖国」「外部」「他者」「わたしたち」などの言葉が繰り返され、「ゲルマン」という語も出てくる、ドイツ哲学のテクストから引用されたものに聞こえる。なぜドイツ?と思うと、日本にいるアジアの留学生のインタビューや、公演会場の近くにある池袋サンシャイン60に来た若者に向け「以前ここに何が建っていたのか」と質問する映像が差し挟まれる。処刑場があったらしい。「アウシュビッツ」に通底するなにかを日本の過去から引き出そうということなのだろうか。90分ほどの公演時間中、暁子猫は、ひとり語りを淀みなく続けた。
Port B:http://portb.net/

2009/03/04(水)(木村覚)

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