artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
三島喜美代展
会期:2017/05/02~2017/05/28
現代美術 艸居[京都府]
ひもでくくられた古新聞・古雑誌、平積みされた少年漫画、商品のロゴマークが入ったダンボール箱、空き缶を満載したゴミ箱など、現代の物質文明を想起させるモチーフをテーマにした陶オブジェで知られる三島喜美代。近年は国際的に評価が高まっている彼女が、久々に地元の関西で個展を開催した。三島はもともと絵画と新聞紙のコラージュを併用した平面作品を制作していたが、1970年代から陶オブジェへと移行した(鉄や樹脂の作品もある)。彼女は陶芸を選択した理由を「やきものは割れる。その不安感が面白い」と言い、古新聞・古雑誌や空き缶といったモチーフは「家の近所の見慣れた風景で、面白いと思った」と述べている。このことから三島は直感的な作家だと類推できるのだが、それでこれだけ一貫性のある質の高い作品を残してきたのだから、美術家の直感恐るべしである。また、本展で興味深かったのは一番奥の部屋に展示されていた《Film 75'》という作品だ。夫を撮影した35ミリネガフィルムをシルクスクリーンでプリントしたフィルム状のオブジェだが、三島の作品にしては珍しくプライバシーに触れている。この作品は存在すら知らなかったので、見られてラッキーだった。
2017/05/05(金)(小吹隆文)
ライアン・ガンダー─この翼は飛ぶためのものではない
会期:2017/04/29~2017/07/02
国立国際美術館[大阪府]
1976年生まれの英国出身アーティスト、ライアン・ガンダー。新しいコンセプチュアル・アートの旗手と称される彼の大規模個展が、大阪の国立国際美術館で開催されている。作品数は59点。室内に沢山の矢が突き刺さったインスタレーションや、ぐりぐりと動く目玉&眉毛、500体の改造された玩具人形などのキャッチーな作品がある一方、理解し難い作品も少なくなかった。そこで筆者としては異例だが、2周目からは音声ガイダンスの力を借りることに。ガンダーが書いたメモを読み上げるだけの簡単なものだったが、これがとても役に立った。彼の作品には複数のコンセプトが埋め込まれており、その背景には言語(英語)と英国およびヨーロッパの歴史がある。こうした作品を異文化の人間が理解することの難しさを改めて感じた。取材当日にはガンダーの講演会があり、質問コーナーで音声ガイダンスのことを述べたら、彼は浮かない顔をしていた。筆者がもっぱら音声ガイダンスに頼っていたと誤解したようだ(通訳が「2周目」を訳さなかった?)。でも、彼自身がメモを書いているのだから、そんな反応はしないでほしかった。また国立国際美術館では、本展と同時期のコレクション展(常設展示)の作品選定をガンダーに任せていた。異なる作家の作品を、ある共通項を基準に2点ずつ紹介するもので、美術館学芸員なら絶対にやらないであろうユニークなものだった。
2017/04/30(日)(小吹隆文)
技を極める──ヴァン クリーフ&アーペル ハイジュエリーと日本の工芸
会期:2017/04/29~2017/08/06
京都国立近代美術館[京都府]
フランスのハイジュエリー・ブランド「ヴァン クリーフ&アーペル」。同社は年に一度、一カ国、一都市で展覧会を行なっているが、本年の舞台に選ばれたのは日本の京都。展覧会では同社の歴史を彩る名品が出展されたほか、日本の明治時代の超絶技巧工芸や、現代の工芸家の作品も展示され、時代と洋の東西を超えた「技」の競演が繰り広げられた。ジュエリーは小さな装身具なので、見せ方が難しい。本展では建築家の藤本壮介が会場構成を担当し、その難題に見事に応えた。なかでも、約18メートルの檜の一枚板を展示台に用いて、ブランドの歴史を一本の道に例えた第1章(画像)と、張り巡らせたガラス壁に鏡像が複雑に反射し、遠方が霞んでいく幻想的な第2章には圧倒された。会場構成でこれだけ唸らされたのは久しぶりだ。本展の主役はもちろんハイジュエリーと日本の工芸だが、そこに藤本の名を加えても良いのではなかろうか。
2017/04/28(金)(小吹隆文)
2017 宮本承司展
会期:2017/04/15~2017/04/30
京都・アートゾーン神楽岡[京都府]
半透明の握り寿司という、衝撃的な作品で鮮烈なデビューを飾った木版画家・宮本承司(ほかには、果物、アイスキャンディ、かき氷なども)。個展やグループ展などの度に彼の作品を見てきたが、近年は東京での発表が多く、寂しい思いをしてきた。それだけに期待大で本展に臨んだ訳だが、宮本はその期待を軽々と超えてくれた。モチーフ単体の作品はもちろんだが、寿司ネタの数々やあがり(お茶)などの連作を木箱に納め、竹皮で包んだ《すし折》や、過去作のボツを切り抜いてコラージュした《輪廻その1》(画像)など、ユニークな作品が数多く見られたのだ。宮本の特徴は鋭利なまでにシャープな技術と感性だが、そこに木版画特有の柔らかみ、温かみが加わることにより、バランスの良い作品が生み出される。さらに本展では、旧作を再利用したコラージュという新たな展開が加わった。待った甲斐ありだ。
2017/04/25(火)(小吹隆文)
オオニシ クルミ個展 形と記憶
会期:2017/04/16~2017/04/23
GALLERY 301 due[兵庫県]
画廊の壁面に、サンゴを思わせる小さな白いオブジェが数十点も並んでいる。なかには輪になったものも。近づいてじっくり見ると、それらは花や花束をモチーフにしたオブジェだった。細部までじつに細かい造形となっており、彫刻や彫塑では不可能なほどの緻密さだ。つくり方を聞いてみると、やはり生花を泥漿に浸して焼成したやきものだった。生花は窯の中で燃え尽きてしまうので、作品は一種のミイラ、生の姿を留めた死体、あるいは生命の抜け殻と言えるだろう。植物や衣服を泥漿に浸して焼成する陶芸作品はけっして珍しいものではない。しかし彼女の場合、花のかけらから花冠まで多様な作品を並べているのと、個々の作品から放たれる可憐な風情が印象的だった。作者は新人で、その初々しさ、技術と経験の足りなさが良い方向に作用したとも言えるだろう。技術面、造形面でまだまだ伸びしろがあると思うので、今後の展開が楽しみだ。
2017/04/21(金)(小吹隆文)