artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
堤加奈恵タペストリー展 Forest of gretel
会期:2017/04/18~2017/04/23
同時代ギャラリー[京都府]
綴織などによる大きなタペストリー作品7点が並んでいる。一番大きな作品は《Forest of gretel》といって、童話の『ヘンゼルとグレーテル』から着想したものだ。深い森の中に一軒家があり、森の木々の中には人間の顔を持つものもいる。土葬された曾祖母を偲んだ《還るところ》、粘菌に着目した《生命力》、画廊の柱にへばりつくように展示された《moss》など、生命や死生観をテーマにしたものが多い。織物は一つひとつの作業を気が遠くなるほど繰り返してつくられるが、大作を7点も仕上げてきた作者の熱意には感心せざるをえない。
2017/04/19(水)(小吹隆文)
田中梢個展 遠くにいても近くにいる様な
会期:2017/04/17~2017/04/22
ギャラリー白3[大阪府]
砂丘越しに見える海や、崖沿いの海岸を主題にした油彩画を出品。作品の特徴は大胆な構図だ。画面を斜めに横切る砂丘、垂直に切り立った崖、海の水平線が、ベージュ、黒、青の色面分割と共に描かれている。つまり、具象画でありながら抽象画の要素も併せ持っているのだ。それでいて風景の中には人々の姿も小さく描かれており、どこか親密な雰囲気が感じられる。作者によると、作品の主眼は「風景の中に偶然写り込んだ人々を描くこと」。旅先では、ほんの一瞬出会った人から忘れられない印象を受けることがあり、それが日常生活では解けなかった疑問のヒントになる場合がある。そうした自分と他人の距離感や関係を表現したいと思っているのだ。作品のサイズはどれも小さく(20号と3号)、必要最小限の要素で表現されている。それゆえ観客はぐっと近づいて作品を覗き込むことになるが、それも作者の狙いであろう。
2017/04/17(月)(小吹隆文)
プレビュー:井上嘉和のダンボールお面 写真展
会期:2017/05/02~2017/05/14
ギャラリー・ソラリス[大阪府]
劇団維新派のオフィシャルカメラマンであり、国内外のミュージシャン、アーティストの撮影でも知られる写真家、井上嘉和。彼は2010年の節分にダンボールで鬼の仮面をつくったが、子供が思いのほかビビったことに味をしめ、その後も毎年ダンボールで仮面をつくるようになった。そして自作したお面の数々をSNSにアップしたところ、テレビや新聞からの取材や、ワークショップの依頼が舞い込むように。本展では、彼がつくったお面と、ワークショップの参加者がつくったお面の写真を展覧。会場内にお面を被れるコーナーを設けるほか、5月5日のこどもの日にはダンボール兜のワークショップも開催する。写真ファンはもちろん、写真を用いた親子コミュニケーションに興味がある人も注目してほしい。
2017/04/10(月)(小吹隆文)
プレビュー:植松奎二 見えない重力
会期:2017/05/13~2017/06/10
ギャラリーノマル[大阪府]
2013年に中原悌二郎賞を受賞し、2014年にニューヨーク近代美術館への作品収蔵、2015年には韓国で大規模な個展を開催するなど、海外での評価が一層高まっているベテラン彫刻家、植松奎二。彼が3年ぶりに大阪のギャラリーノマルで個展を行なう。作品は、約6メートルの角材2本を1本のロープで吊り、空間に巨大な三角形を生じさせる《Cutting-Triangle》と、全長約10メートルのドローイング《置─重力軸・Situation-Gravity axis》など。それらは、彼が長年テーマにしてきた重力や引力(=宇宙を形作る普遍的な力)を可視化したものであり、画廊内に小さな宇宙をつくる試みでもある。今年で70歳になるアーティストとは思えぬ、躍動感と新鮮な感性に満ち満ちた新作が、今から楽しみだ。
2017/04/10(月)(小吹隆文)
快慶 日本人を魅了した仏のかたち
会期:2017/04/08~2017/06/04
奈良国立博物館[奈良県]
運慶とともに鎌倉時代を代表する仏師、快慶の大回顧展。現在、快慶作が確実とされる仏像は45体あるが、本展では約8割に当たる37体が展示されている(会期中に入れ替えあり)。また、快慶作と思われる仏像や、快慶作品の成立に密接にかかわる絵画、高僧たちとの交渉を伝える資料なども展示されており、展示総数は全88件に上る。快慶の仏像はメリハリの利いたダイナミックな表現と盤石の安定感が見事に融合しており、高い品格を漂わせているのが特徴。本展ではそうした快慶作品の魅力を存分に堪能でき、至福のひと時を過ごせた。また、重源をはじめとする高僧との関係、彼自身が熱心な阿弥陀信仰者として造仏に臨んでいたこと、「三尺阿弥陀」と呼ばれる阿弥陀如来立像の様式と変遷にも触れており、彼の生涯と実像を具体的にうかがうことができた。筆者は1994年に奈良国立博物館で行なわれた「運慶・快慶とその弟子たち」を見て非常に感動した経験を持つ。それから20年以上の時を経て、再びこのような機会に恵まれた。感動もひとしおだ。
2017/04/07(金)(小吹隆文)