artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

プレビュー:ライアン・ガンダー─この翼は飛ぶためのものではない─

会期:2017/04/29~2017/07/02

国立国際美術館[大阪府]

ライアン・ガンダーといえば、昨年に岡山市で行なわれた「岡山芸術交流」の作品が思い浮かぶ。市街地の駐車場に展示されていた、墜落したUFOみたいなオブジェだ。また、2010年に大阪のサントリーミュージアム[天保山]で行なわれた「レゾナンス 共鳴」にも参加しており、展示室内にフェイクの壁をつくって、壁の割れ目から光と音を発するインスタレーションを発表していた記憶がある。筆者が彼について知っているのはこれぐらいだ。ガンダーは英国の作家で、新たなコンセプチュアル・アートの旗手と目されているらしいが、当方は彼について無知なので何とも言いようがない。GWから大阪の国立国際美術館で始まる個展では、彼の代表作と新作約60点が見られる。この機会に彼のことを正しく知りたい。また、同館のコレクション展もガンダーが企画するとのこと。むしろこちらのほうが彼の作家性を鮮明に示してくれるかもしれない。

2017/03/20(月)(小吹隆文)

プレビュー:KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2017

会期:2017/04/15~2017/05/14

京都市内16カ所[京都府]

京都の歴史遺産、寺社、町家、近代建築などを会場に行なわれるフォト・フェスティバル「KYOTOGRAPHIE」。過去4回の総入場者数は約25万人を数え、年々注目度が上がっている。優れた写真作品と国際観光都市・京都の魅力を同時に味わえるのだから、人気を博するのも道理だ。今年は16会場を舞台に国内外の写真家やコレクションを紹介する。なかでも、二条城二の丸御殿台所東南隅櫓の「アーノルド・ニューマン展」、誉田屋源兵衛 竹院の間の「ロバート・メイプルソープ展」、両足院(建仁寺内)の「荒木経惟展」は注目を集めるだろう。また、美術館「えき」KYOTOの「アニエスベー フォトコレクション」(会期はほかと異なる)も見応えがありそうだ。なお、同フェスティバルでは毎年テーマを設定しているが、今年のテーマは「LOVE」。恋愛や種の保存だけでなく、さまざまな文化的背景を持つ多種多様な愛の姿を提示するとのこと。昨今の国際的な世相に対するメッセージも兼ねているのだろうか。

2017/03/20(月)(小吹隆文)

風と水の彫刻家 新宮晋の宇宙船

会期:2017/03/18~2017/05/07

兵庫県立美術館[兵庫県]

兵庫県三田市にアトリエを構えるベテラン作家、新宮晋(1937~)は、風や水などの自然エネルギーを受けて動く彫刻作品で国際的に知られている。彼は東京藝術大学を卒業したあとに渡ったイタリア(1960~66)で、風で動く作品の魅力に気付いたという。その後世界各国の公共空間などに約160点の作品を設置している。また、欧米の諸都市を巡る野外彫刻展「ウインドサーカス」や、作品設置を通して世界各地の少数民族と交流する「ウインドキャラバン」など、アートプロジェクトにも熱心に取り組んできた。本展では美術館をひとつの宇宙船に見立てて、18点の作品を展示している。また、過去のプロジェクトの紹介や模型の展示も行なわれた。空調の風や微弱な対流を受けて動く作品はとても優雅で、時が経つのを忘れて作品に見入ってしまう。また、館内に専用のプールを設けて設置した水で動く作品も、予測のつかない動きと光の反射が美しかった。本展の会場、兵庫県立美術館は、安藤忠雄が設計したことで知られている。その巨大な空間は時としてアーティストや学芸員を悩ませるが、本展の展示構成は本当に見事だった。安藤も喜んでいるだろう。

2017/03/17(金)(小吹隆文)

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小出麻代「うまれくるもの」

会期:2017/03/10~2017/04/09

あまらぶアートラボ A-Lab[兵庫県]

2015年に旧公民館を活用して開館した、兵庫県尼崎市のアートセンター「あまらぶアートラボ A-Lab」。そのオープニング展「まちの中の時間」に出展した3作家、ヤマガミユキヒロ、小出麻代、田中健作には、展覧会終了後に約1年かけて同市でフィールドワークを行ない、2016~17年に順次個展を行なうことが、あらかじめプログラムされていた。本展はそのひとつである。今回小出が発表した作品はインスタレーションと言葉(詩)で、3つの部屋と廊下にそれぞれ1点ずつ展示されていた。素材は、印刷物、紙、サイアノタイプ(青写真)、照明、鏡、シリコン製の家型オブジェなどである。本展の印象を一言で述べると「残響のよう」であった。空間に素材としての物質はあるものの、それらの存在感は控えめで、むしろ純化されたエッセンスが充満しているように感じられたからだ。もともと小出はポエティックな表現を得意としている、今回もその資質が十分に発揮されたと言えるだろう。美しい音楽や詩を聞いたあとのような、繊細な余韻に浸れる展覧会だった。

2017/03/17(金)(小吹隆文)

山岡敏明展「GUTIC i was born」

会期:2017/03/10~2017/03/26

Gallery PARC[京都府]

山岡敏明は自作を「GUTIC(グチック)」と名付け、制作の過程で生じた無数の可能性を観客に意識させる活動を行なっている。具体的には、完成したタブロー、大量のドローイング、紙の上で描いては消す作業を記録した映像などを、等価なものとして提示しているのだ。また「GUTIC」という名称は、観客に先入観を抱かせないための仮称にすぎない。本展ではパネル張りのタブローが10点近く展示されたが、壁の裏側の狭い空間には大量のドローイングも並べられており、双方が等価あるいは表裏一体の関係であることが示された。多くの人は、完成作が「主」でドローイングは「従」と見なしているだろう。しかし山岡の活動を理解すれば、美術館で見た名作も無数にあった可能性のひとつにすぎないと気付くはずだ。そのとき、観客の目前には新たな美術の地平が開けているのではないか。

2017/03/10(金)(小吹隆文)