artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

プレビュー:小出麻代 うまれくるもの

会期:2017/03/10~2017/04/09

あまらぶアートラボ A─Lab[兵庫県]

2015年に開館した兵庫県尼崎市のアートセンター「あまらぶアートラボ A─Lab」。そのオープニング展として行なわれた「まちの中の時間」では、出展作家のヤマガミユキヒロ、小出麻代、田中健作が展覧会終了後に1年間かけて尼崎市でフィールドワークを行ない、その成果を2016~17年に順次個展として発表するプロジェクトが組まれていた。すでに昨年にはヤマガミが個展を行ない、2人目として登場するのが小出麻代である。小出は、糸、紐、紙、セロファン、鏡、鉛筆、版画、照明などの小ぶりな素材を組み合わせたインスタレーションで知られる作家だ。展示空間の特性や、自身の記憶、感性を自然なかたちで融合させる術に長けており、繊細でしなやかな作風には定評がある。「うまれくるもの」と題した本展で、彼女が尼崎で見つけ、感じたものに思いを馳せたい。

2017/02/20(月)(小吹隆文)

そがひろし「気遣ひ」

会期:2017/02/14~2017/02/23

LADS GALLERY[大阪府]

この作家のことはいままで知らなかったが、作品が発する異様なパワーに圧倒された。作品の支持体は紐による不規則なグリッドで区切られ、そこに和柄の布地、ペイント、文字が配されている。文字は古事記や足尾銅山鉱毒事件を明治天皇に直訴した事で知られる政治家・田中正造の一文など歴史的な素材から採られているようだ。また、支持体に仏壇を流用したものもあり、飾り金具を作品の一部として活用したケースもあった。一目見て思ったのは、呪術的、情念的だということ。作家がどのような意図で本作をつくったのか不明だが、これらの作品を見たものは一様にまがまがしさを感じるであろう。作家は1958年生まれで岐阜県郡上八幡市在住。具体美術協会の作家・嶋本昭三との出会いから美術活動を始めた。展覧会は主に東京で行ない、名古屋でも数回個展を行なっている。関西での個展は今回が初めてのようだ。こんなにユニークな作家がいるとは知らなかった。今後も関西で個展を行なってほしいものだ。

2017/02/17(金)(小吹隆文)

白図 山下裕美子展

会期:2017/02/09~2017/02/26

ぷらすいちアート[大阪府]

山下裕美子の作品を初めて見た人は、それらが紙でできていると思うだろう。まさか陶芸だとは思わないはずだ。彼女の作品はそれほどに薄く、軽く、儚い雰囲気を漂わせている。作品は、和紙や布を貼り重ねて造形し、泥状の土を塗った後、焼成している。焼成段階で紙や布は燃えてしまい、陶土のみが残るのである。展示はライトボックスの上に置かれることが多い。透過光が繊細さを一層強調するのだ。しかし本展では、いくつかの作品を金属板や板の上に設置し、作品の新たな魅力を引き出そうとしていた。また、ひしゃげた箱や何かを包んだ紙など、これまでとは異なるモチーフを採用しているのも大きな特徴だった。作風自体は正常進化だが、いくつかの点で新たなチャレンジがうかがえ、今後の変化に含みを持たせた。本展を位置づけるとこんな感じだろうか。

2017/02/17(金)(小吹隆文)

筆塚稔尚展

会期:2017/02/11~2017/02/26

アートゾーン神楽岡[京都府]

1980年代から活躍し、確かなテクニックを持つことで知られる版画家、筆塚稔尚。本展では、近年彼が取り組んでいる、雨をモチーフにした銅版画が見られた。雨といってもいろいろあるが、彼が選んだのは水面に落ちる雨粒とその波紋である。特に波紋の表現は秀逸で、まるで機械で描いたかのように正確な同心円がフリーハンドで描かれている。作品には描き込みが多いものと少ないものがあったが、筆者自身は余白を大きくもうけた後者のほうが、余韻が感じられて好きである。また、会場の画廊は2フロアから成るが、上の階では雲をモチーフにした旧作の油性木版画が展示されていた。上の階で雲、下の階で雨という物語的な構成だ。画廊主の発案らしいが、小粋な演出だと思った。

2017/02/14(火)(小吹隆文)

ARS ELECTRONICA in the KNOWLEDGE CAPITAL vol.07
InduSTORY 私たちの時代のモノづくり展

会期:2017/02/09~2017/05/07

ナレッジキャピタル The Lab. みんなで世界一周研究所[大阪府]

従来のアート、デザイン、科学、ビジネスの枠を取り払った、新たな時代のクリエーションを見せてくれるナレッジキャピタルの企画展。本展は、オーストリア・リンツのクリエイティブ・文化機関アルスエレクトロニカとのコラボ企画第7弾で、東京大学・山中俊治研究室プロトタイピング&デザイン・ラボラトリーと、さまざまな分野の人材から成るプロジェクトチーム、ニューロウェアの2組が登場した。プロトタイピング&デザイン・ラボラトリーの作品は、生物的な動きを見せる機械や同一素材からさまざまな触感を得るための試みであり、ニューロウェアの作品は、センサーやデータを駆使して人とモノのコミュニケーションを図るツールである。これらを現在のアートの文脈で評価するのは難しいが、今後はこうしたテクノロジー系の芸術表現が増えていくのは間違いないだろう。そのときアートは新境地を開拓するのか、それとも新たな領域に飲み込まれていくのだろうか。

2017/02/09(木)(小吹隆文)

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