artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

田嶋悦子展 Records of Clay and Glass

会期:2017/06/10~2017/07/30

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

1980年代から活躍し、国内外で高く評価されている陶オブジェ作家、田嶋悦子が、これまでの活動を振り返る個展を西宮市大谷記念美術館で行なっている。出展作品は、1987年の《Hip Islnad》から最新作《Records》(画像)までの15点。点数が少ないと思われるかもしれないが、大作やインスタレーションが多いので、けっして物足りなさは感じない。田嶋は陶とガラスを組み合わせるのが特徴。そのスタイルを確立した1990年代の《Cornucopia》シリーズも展示されていたが、筆者が注目したのは前述した2作品だ。《Hip Island》は数百のパーツを組み合わせたインスタレーションで、植物から着想したフォルムと黄、赤、金などのあざやかな色彩が大きな特徴である。1980年代の関西美術界に溢れていたバイタリティーを体現したような作品だが、これまで実見する機会がなかった。やっと出合えて嬉しい限りだ。一方《Records》は机上に陶とガラスから成る120個の作品が並んだもので、陶の表面にアジサイの葉を転写しているのが特徴である。田嶋は美術館で縄文土器の展覧会を見た際に、幼子の手足を押しつけた陶製アクセサリーを発見し、やきもので記憶を表現できることに気付いたという。ガラス部分もこれまで用いていたパート・ド・ヴェールではなく、板ガラスをカットしていたのが印象的だった。本展は、田嶋の約30年に及ぶキャリアを総括しつつ、新シリーズの門出を高らかに歌い上げたものだ。「まだまだやるぞ」という作家の声が聞こえてきそうな、気持ちのいい個展だった。

2017/06/10(土)(小吹隆文)

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黒瀬剋展

会期:2017/06/06~2017/06/17

galerie 16[京都府]

絵画作品が出来上がるまでには紆余曲折があるが、われわれが見られるのは完成した画面のみで、途中経過は分からない。しかし黒瀬剋は、作品が変化していく過程にも完成作と等価な魅力があると考え、それを可視化することを思い立った。その結果生まれたのが、《メタモルフィック・ペインティング》と《コンティニュアス・ペインティング》という2つのシリーズだ。前者は1枚の絵を分解してパズルピースにしたもので、画面の配列が変更可能となり、そこに上描きすれば新たなイメージが発生する。後者は、作品を写真撮影してプリントの上から描き足す作業を繰り返すことで、イメージの変遷を可視化するものだ。前者はパズルを組み換えればまた新たなイメージを創造でき、後者はプリントを複数用意すればひとつのイメージから複数の方向に分岐ができる。つまり黒瀬の作品は、制作過程を可視化することと、完成作は無数の可能性のひとつにすぎないことを示すのがテーマなのだ。筆者は黒瀬以外の画家からも、過去に何度か同様の悩みを聞いたことがある。この問題は画家にとって普遍的なのだなと、改めて実感した。

2017/06/06(火)(小吹隆文)

糸川燿史写真展「大阪芸人ストリート」~1994年から1999年『マンスリーよしもと』の扉を飾った芸人たち~

会期:2017/06/01~2017/06/18

10Wギャラリー[大阪府]

大阪を拠点とするベテラン写真家で、1970年代初頭の関西フォークのミュージシャンを捉えた写真集『グッバイ・ザ・ディランⅡ』や、村上春樹の1作目の長編小説を映画化した「風の歌を聴け」のスチールで構成される『ジェイズ・バーのメモワール』などで知られる糸川燿史。本展では彼が1994年から1999年に『マンスリーよしもと』の表紙のために撮影した写真のなかから、精選した約130点が展示された。写っているのは、池乃めだか、末成由美、間寛平、チャンバラトリオ、坂田利夫、チャーリー浜などのお笑い芸人たち。約20年前の写真なので、当然ながら皆若い! なかにはすでに解散した漫才コンビや、最近はテレビで見なくなった芸人の姿もあり、時の流れが感じられた。お笑い芸人のポートレートはふざけた表情やポーズを連想しがちだが、糸川はそれを良しとしなかった。彼らを大阪各地に連れ出し、同時代の風景とともに撮影したのだ。それにより作品は、単なるポートレートを超えた時代のドキュメントとして成立している。ベタに陥りがちな素材を上手に料理した写真家の勝利である。

2017/06/01(木)(小吹隆文)

Toyosaki Lost And Found~豊崎遺失物取扱所~

会期:2017/05/13~2017/05/28

gallery yolcha[大阪府]

大阪・豊崎地区の無人古民家を解体したら、大量のコラージュ作品が発見された。この作者不明、持主不明の作品が本展の主役である。最初にこの話を聞いたときは、展覧会を演出するフィクションだと思った。会場でギャラリストから事実であると聞き、大いに驚いた次第だ。作品の選定はコラージュ技法を用いる2人の作家、西川亮太と西脇衣織が担当。この謎の作品から着想を得た2人の新作も併せて展示された。謎の作品は大量にあり、保存状態は良好、肝心の表現力もまずまずだった。展示は2室あり、1室では壁面を埋め尽くすように作品が並べられ、もう1室では額装した作品をバランスよく配置していた。そこには少なくとも3人の作品があるはずなのに、筆者には区別がつかない。西川と西脇は敢えて作風を寄せたのだろうか。真意は分からないが、会場の一体感を見る限り、その判断は正解だと思う。昭和時代に制作されたと思しき謎めいたコラージュ作品と、平成の作家そしてギャラリーによる、時空を超えたコラボレーション。規模こそ小さいが、ミステリアスでロマンチックな好企画だった。

2017/05/22(月)(小吹隆文)

プレビュー:田嶋悦子展 Records of Clay and Glass

会期:2017/06/10~2017/07/30

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

陶とガラスにより生命感に満ちた造形をつくり出す田嶋悦子。1980年代は、兵庫県立近代美術館の「アート・ナウ」やギャラリー白で行なわれた「YES ART」など、当時の関西現代美術界における重要展で、カラフルかつ巨大な陶オブジェを発表していた。しかし1990年代以降は、装飾性を削いだミニマルな作風へと移行、やがて陶とガラスを組み合わせた独自の表現にたどり着いた。筆者は、いまは無き大阪の番画廊を中心に彼女の作品をコンスタントに見てきたが、美術館での鑑賞経験は乏しい。広大な展示室で田嶋がどのような展示を見せてくれるのか、いまから楽しみだ。なお本展では、陶とガラスを組み合わせた代表的なシリーズ《Cornucopia》のほか、1980年代から新作までのインスタレーションを中心とした15点が出展される予定だ。

2017/05/20(土)(小吹隆文)