artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

小沢さかえ「わたしたちのいた地球」

会期:2016/08/27~2016/09/25

MORI YU GALLERY[京都府]

関西では約3年半ぶりとなる個展を開催した小沢さかえ。作品はキャンバスに描いた大小の油彩画18点と、紙に水彩や色鉛筆などで描いた小品6点だった。作品の内容は、草原を飛び交う鳥たちの中心で舞う女性、岩山と一体化し、恍惚の表情を浮かべる女性(いずれも自然の精?)、森の中で戯れる動物たちや人間、色とりどりの花であり、現実、幻想、神話、アニミズムが混然一体となった世界を形成している。それらは一種SF的でもあり、筆者は若き日に読んだレイ・ブラッドベリの短編小説を思い出した。現実と空想が地続きだった子供時代の感覚を思い出させてくれること。それが小沢作品の魅力ではないか。

2016/08/27(土)(小吹隆文)

プレビュー:UNKOWN ASIA ART EXCHANGE OSAKA

会期:2016/10/01~2016/10/02

ハービスホール[大阪府]

昨年に第1回展が開かれ、大きな成果を上げた「UNKOWNASIA」。その特徴は、日本、中国、台湾、タイ、インドネシア、フィリピンなど東南アジア各国から参加者を募ること、各国の第一線で活躍するアートディレクター、ギャラリスト、プロデューサーらを審査員として招いていること、賞の授与だけでなく、国内外での発表の機会や仕事のマッチングを行なうことだ。2回目となる今回は、会場を中之島の大阪市中央公会堂から梅田のハービスホールへと変更。会場が広くなったことにより、参加枠が180ブースへと拡大した(昨年は115ブース)。受賞後の活動やビジネスの機会までフォローするイベントは珍しく、昨年の会場は参加アーティストたちの熱気が渦巻いていた。そんな祝祭的な盛り上がりを今年もぜひ体験したい。

2016/08/20(土)(小吹隆文)

プレビュー:六甲ミーツ・アート 芸術散歩2016

会期:2016/09/14~2016/11/23

六甲ガーデンテラス、自然体感展望台 六甲枝垂れ、六甲山カンツリーハウス、六甲高山植物園、六甲オルゴールミュージアム、六甲ケーブル、天覧台、六甲有馬ロープウェー(六甲山頂駅)、グランドホテル 六甲スカイヴィラ、他[兵庫県]

「瀬戸内国際芸術祭」や「あいちトリエンナーレ」ほど大規模ではないが、関西を代表する同種のアートイベントとして知られているのが「六甲ミーツ・アート芸術散歩」だ。そのテーマは、六甲山上のさまざまな施設を散歩感覚で巡って現代アート作品を楽しみ、同時に六甲山の豊かな自然環境を再発見すること。普段は滅多に美術館に行かない人でも、家族で、友人同士で和気あいあいと現代アートに触れられるのが魅力である。今年は、岡本光博、開発好明、さわひらき、トーチカ、三沢厚彦など、招待と公募合わせて39組のアーティストが出品。会場は前回とほぼ同様だが、初期の安藤忠雄建築を代表する旧六甲山オリエンタルホテル・風の教会は今年の会場から外れている(残念)。山の天気は変化しやすく、夕方以降は気温が一気に下がる。雨と防寒の準備を忘れずにイベントを楽しんでほしい。

2016/08/20(土)(小吹隆文)

プレビュー:古都祝奈良(ことほぐなら) 時空を超えたアートの祭典

会期:2016/09/03~2016/10/23

東大寺、春日大社、興福寺、元興寺、大安寺、薬師寺、唐招提寺、西大寺、ならまち、他[奈良県]

日中韓の3カ国で、文化による発展を目指す都市を各国1都市選定し、さまざまな文化プログラムを通して交流を深める国家プロジェクト「東アジア文化都市」。今年は日本の奈良市、中国の寧波市、韓国の済州島特別自治道が選ばれた。奈良市の「美術部門」では、奈良を代表する8つの社寺で、蔡國強、川俣正、サハンド・ヘサミヤン(イラン)、アイシャ・エルクメン(トルコ)など国際的に活躍する8組のアーティストがインスタレーションを展開。江戸時代後期からの街並が残るならまちでは、宮永愛子、西尾美也、紫舟など6組のアーティストがサイトスペシフィックな展示を行なう。また、「舞台芸術部門」として、平城宮跡で維新派とSPAC(静岡県舞台芸術センター)、なら100年会館でオペラ「遣唐使物語」の公演が行なわれるほか、「食部門」として、奈良の食のルーツやシルクロードを通じた東アジアの食の変遷、歴史をテーマにした催しも実施される。奈良でこのような大規模プロジェクトが行なわれるのは珍しく、特に8つの社寺が共同歩調をとるのはきわめて稀だ。幸い、電車とバスで会場間を移動できるので、初秋の一日をこのイベントに費やしてみようと思う。

2016/08/20(土)(小吹隆文)

あいちトリエンナーレ2016 虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅

会期:2016/08/11~2016/10/23

愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、名古屋・豊橋・岡崎のまちなか[愛知県]

3回目を迎えた「あいちトリエンナーレ」。芸術監督の港千尋が掲げたテーマは「虹のキャラヴァンサライ」だ。キャラバンサライはペルシャ語で「隊商宿」を意味する。虹は「多様性」の言い換えであろう。つまり、世界各国の多様な文化的・地理的・宗教的背景を持つアーティスト(虹)が旅をして愛知県(キャラヴァンサライ)に集い、新たな創造の芽が育まれる、と解釈できる。美しいがややドリーミーではではないか。取材前はそう感じていた。しかし、名古屋、豊橋、岡崎での展示を見るうち、このテーマが現在の不穏な国際情勢(テロ、紛争、難民問題、不寛容など)を反映した切実なメッセージだということに気付いた。一見ドリーミーを装って、じつはきわめて硬派な国際芸術祭。それが「あいちトリエンナーレ2016」なのである。3エリアを比較すると、規模の大きさでは圧倒的に名古屋だが、もっともテーマを体現していたのは豊橋だったと思う。岡崎も、石原邸と岡崎シビコは見応えがあった。名古屋だけを見て帰るつもりの人には、ぜひ豊橋と岡崎にも足を運びなさいと申し上げたい。また名古屋の名古屋市美術館の展示は収まりが良すぎて、おとなしい印象を与えた。国際芸術祭なのだから、もっとはっちゃけても良かったと思う。

2016/08/11(木)・2016/08/17(水)(小吹隆文)

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