artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

瀧弘子展 うつしみ

会期:2016/05/14~2016/06/04

CAS[大阪府]

自身の身体を用いたパフォーマンス、写真、ヴィデオ・インスタレーションなどで知られる瀧弘子の新作展。最近の彼女は、鏡に写る自身の姿を鏡面になぞり描きし、照明を当てて反射光を壁面に投影する作品を手掛けている。本展では光の代わりに自身を撮影した動画を用いて、壁面に静止画と動画が重なって投影される新作を発表。同シリーズのさらなる深化に成功した。また、男性器をモチーフにした創作折り紙を発表していたのも気になるところ。彼女の創作折り紙は以前にも見たことがあり、即興的につくったとは思えぬ出来栄えに感心した記憶がある。今回の作品を見て、その才能がただ者ではないことを確信した。こちらも今後の展開が楽しみだ。

2016/05/16(月)(小吹隆文)

ルーベン・サルガド・エスクデロ写真展 SOLAR PORTRAITS

会期:2016/05/07~2016/06/26

Gallery TANTO TEMPO[兵庫県]

スペイン出身で、10代をアメリカで過ごし、ベルリンでビデオゲーム会社の3Dゲーム開発に携わった後、仕事を辞めてドキュメンタリー写真家になったルーベン・サルガド・エスクデロ。彼は東南アジアやアフリカの発展途上国に赴き、ソーラーパネルで電力供給を行なうプロジェクトに携わっている。本展の作品は、人々が電力の恩恵にあずかった瞬間を撮影したものだ。といっても作品はスナップ写真ではない。計算された構図と配置による肖像あるいは群像写真であり、電力がもたらした照明のハイライトもあって、崇高かつドラマチックな仕上がりになっている。このプロジェクトは『ナショナルジオグラフィック』誌で取り上げられたほか、2015年の「ソニー・ワールド・フォトグラフィ・アワード」でもポートレイト賞を受賞しているとのこと。今回の個展がなければ、私は彼の存在を知ることはなかっただろう。機会を与えてくれた画廊に感謝するとともに、美術館やアートセンターでも彼の個展が行なえないものかとも思った。

2016/05/15(日)(小吹隆文)

森村泰昌アナザーミュージアム(NAMURA ART MEETING '04-'34 Vol.05「臨界の芸術論Ⅱ─10年の趣意書」より)

会期:2016/04/02~04/04、05/03~05/05、06/10~06/12

名村造船所跡地[大阪府]

国立国際美術館の「森村泰昌:自画像の美術史─「私」と「わたし」が出会うとき」展と連動した本展では、森村の作品に使用された舞台セットや背景画、小道具などが展示され、映像作品《「私」と「わたし」が出会うとき─自画像のシンポシオン─》のメイキングシーンを収めたドキュメント映像も上映されている。日頃は立ち会うことができない制作現場を覗けるのは、美術ファンにとって大きな喜びだ。舞台セットや小道具を生で見ることにより、森村の作品が多くのスタッフを擁するプロジェクトであることが実感できた。また、美術史に侵入する森村の作品世界に、さらに自分が侵入することで、もともと複雑な構造を持つ作品世界にさらなるひと捻りが加わるのも面白かった。本展は4月から6月まで開催されているが、各月とも3日間しかオープンしない。筆者は4月に行きそびれて、1カ月待たされたが、出かけた甲斐があった。幸い会期がまだ残っているので(6月10日~12日)、国立国際美術館の森村展を見た人は、こちらも併せて鑑賞するようおすすめする。

2016/05/05(木)(小吹隆文)

“人間の記憶” 須田一政写真展

会期:2016/04/20~2016/05/08

gallery Main[京都府]

須田一政が1997年に「第16回土門拳賞」を受賞した作品群《人間の記憶》。同作は彼が本格的に写真を始めてから1993年までのモノクロ作品から選びだしたものであり、一作家の写真史とも言える。本展では、須田が1997年にニコンサロンで行なった個展で発表したオリジナルプリントを、約20年の時を経て再展示した。しかも、作品の配置も可能な限り当時の個展を再現したとのこと。作品数は50点以上。当時を知る者はもちろん、初めて同作を見る若い写真ファンにとっても貴重な機会であった。昔の個展を再現する手法自体が魅力的で、今後同様の企画が広まれば写真史の再発掘に資するだろう。なお、本展の画廊主(写真家と兼業)は当時の個展を見ており、自分が写真家を志すきっかけになったという。関係各位の写真愛が垣間見えるという点でも、本展は感動的な企画であった。

2016/04/29(金)(小吹隆文)

没後100年 宮川香山

会期:2016/04/29~2016/07/31

大阪市立東洋陶磁美術館[大阪府]


明治の陶芸家・宮川香山(1842~1916)といえば、「蟹」(重要文化財《褐釉高浮彫蟹花瓶》)を初めて見た時を思い出す。その異形ぶり、えげつないまでのテクニック。とても人間技とは思えない超絶技巧の仕事を前に、唖然としたまま固まってしまったのだ。本展では、彼の代名詞である高浮彫の作品はもちろん、作風を一転した後期の作品(釉下彩)まで、代表作が網羅されている。高浮彫のスペクタクルな過剰装飾は凄いの一言だが、釉下彩のエレガントなたたずまいも捨てがたい。欧米人が熱狂的に支持したのもわかるし、後のアール・ヌーヴォーに影響を与えたのも頷ける。それにしても、香山を含む明治の工芸家の超絶テクは一体どういうことだろう。彼らは明治時代に活躍したが、そのベースに江戸時代があることを忘れてはいけない。いまさらながら江戸時代の日本文化がどれだけハイレベルだったのかと思い知らされる。本展を鑑賞する際、香山一人ではなく文化的背景にまで思いを巡らせるのが正解だと思う。

2016/04/28(木)(小吹隆文)

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