artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
高倉大輔 個展 monodramatic/loose polyhedron
会期:2016/09/02~2016/09/24
TEZUKAYAMA GALLERY[大阪府]
2014年に発表し、国内外で反響を巻き起こした「monodramatic」シリーズと、新作「loose polyhedron」シリーズを出品。前者はあるシチュエーションを1人のモデルが演じるもので、モデルが分身して画面中に散らばっているのが特徴だ。後者は作家と同世代の20~30代の若者を被写体とし、彼らの喜怒哀楽、多面性、抑圧された感情を、写真と五角形のチャートで表わしている。幸い作家が在廊していたので、作品の詳細を聞くことができた。高倉はアーティストであると同時に演劇人であり、作品に登場するモデルも俳優やパフォーマーが務めている。そして高倉自身が彼らに演出をつけると同時に、一人芝居の要素を含んでいる。つまり演劇的要素の濃い写真作品なのだ。また、本展では1点だけ壁一面に拡大した作品があった。これが非常に効果的で、今後の展示スタイルに影響を与えるかもしれない。関西初個展を成功裏に終えた高倉。次回の来阪が今から楽しみだ。
2016/09/09(金)(小吹隆文)
昼馬和代展
会期:2016/09/06~2016/09/18
LADS GALLERY[大阪府]
極薄の粘土板を数十あるいは百以上も重ねたミルクレープ状の構造を持つ昼馬和代の陶オブジェ。《記憶する大地》や《記憶》と題した作品はまるで地層の断面のようであり、《青い記憶》と《甦る─大地》は断崖絶壁の頂上に水源をたたえた姿が印象的だ。つまり彼女は、幻想的な風景によって悠久の時の流れを表現しているのであろう。作品を見た当初は特徴的な層構造の制作法が分からず、表面を削って層に見せているのではないかと疑った。しかし、そのようなやり方ではリアリティーが出ず、薄い粘土板を愚直に積み重ねることでしか、重厚な存在感を表現できないそうだ。昼馬は1947年生まれのベテランだが、団体展や地元(堺市)での活動が多く、筆者は本展まで彼女の存在を知らなかった。陶芸界は広くて深い。私はまだまだ勉強不足だ。
2016/09/08(木)(小吹隆文)
楢木野淑子 展
会期:2016/09/06~2016/10/02
ギャラリーなかむら[京都府]
レリーフ状の装飾で埋め尽くされた陶オブジェで知られる楢木野淑子。その豊饒な世界観は古代遺跡のレリーフを連想させ、生命賛歌ともいうべきポジティブなエネルギーに貫かれている。今回は、緩やかに湾曲した陶板360個を積み上げた、直径約3メートル、高さ約2メートルの大作を出品した。これまでも円柱型の作品はあったが、これほど巨大なものは初めてだ。その作業を焼成以外は独力で成し遂げたことに驚かざるを得ない。装飾は動植物、人間(神?)、幾何学形態の組み合わせで、型抜きしたパーツを陶板に貼り付けている。彩色は陶芸用の絵具を用いており、いままでは見られなかった絵画的な着彩が導入されていた。これまでも観客の期待を超える作品で何度もブレークスルーを果たしてきた楢木野だが、この新作はマイルストーンと呼ぶべき重要作ではなかろうか。見逃さなくて良かった。
2016/09/06(火)(小吹隆文)
日輪の翼 大阪公演
会期:2016/09/02~2016/09/04
名村造船所大阪工場跡地(クリエイティブセンター大阪)[大阪府]
台湾で作られたデコトラ調の移動舞台車を用いて、中上健次原作の野外劇『日輪の翼』を国内各地で上演してきたやなぎみわ。筆者は過去に移動舞台車とそこで行なわれたポールダンスのパフォーマンスを見たことがあるが、『日輪の翼』は初めてだった。会場は名村造船所大阪工場跡地。やなぎの演出は工場跡の広大なスペースを生かしたもので、約100メートルはあろうかという奥行を効果的に利用していた。特に闇にフェイドアウトしていくラストシーンは秀逸だった。また演劇と音楽とポールダンスをミックスした構成もユニークで、舞台公演でしか表現できない世界が確かに感じられた。ところで、野外公演のネックは天候だが、当日は序盤から中盤にかけて雨に見舞われた。傘は禁止だったので、観客はカッパ着用で耐えるのみ。しかし、後半になると雨がやみ、天候すら演出の一部だったのかと思わせる展開に。やなぎをはじめとする関係者一同の熱意が天に通じたのであろう。
2016/09/03(土)(小吹隆文)
古都祝奈良 ─時空を超えたアートの祭典─
会期:2016/09/03~2016/10/23
東大寺、興福寺、春日大社、元興寺、大安寺、西大寺、唐招提寺、薬師寺、ならまち、ほか[奈良県]
「古都祝奈良(ことほぐなら)」は、日本、中国、韓国の3カ国で、文化による発展を目指す都市を各国1都市選定し、さまざまな文化プログラムを通じて交流を深める国家プロジェクト。今回は日本の奈良市、中国の寧波市、韓国の済州特別自治道が選ばれた。イベントは美術部門、舞台芸術部門、食部門から成るが、筆者が取材したのは、美術部門のうち8つの社寺で行なわれた作品展と、ならまち会場の一部だ。8つの社寺とアーティストのラインアップは、東大寺/蔡國強(中国)、春日大社/紫舟+チームラボ(日本)、興福寺/サハンド・ヘサミヤン(イラン)、元興寺/キムスージャ(韓国)、大安寺/川俣正(日本)、西大寺/アイシャ・エルクメン(トルコ)、唐招提寺/ダイアナ・アルハディド(シリア)、薬師寺/シルパ・グプタ(インド)である。アーティストの国籍がアジアを横断しているが、その背景には、かつて平城京がシルクロードの東の終着点だった歴史があるのだろう。作品では、巨大な木製の塔を建てた川俣正、寺院にふさわしい哲学的なオブジェを発表したキムスージャ、インタラクティブな映像作品の紫舟+チームラボ、龍の伝説と中東起源のユニコーンをクロスさせたダイアナ・アルハディド(シリア)など力作が多く、非常に見応えがあった。また、電車、バス、徒歩で比較的容易に会場間を移動でき、一部社寺の拝観料以外は無料で観覧できるのも嬉しいところだ。このイベントは初期の広報が不親切で、事前の周知が十分とは言い難かった。もっと丁寧な広報を早期から心がけていれば、きっと大きな話題を集めたであろう。展示が素晴らしかっただけに、その点だけが残念だ。なお、美術部門のディレクションとアーティスト選定を担当したのは北川フラムである。
2016/09/02(金)(小吹隆文)