artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

大場康弘作品展「Inner Books」躰の内に眠る書庫を静かに開いてみる……

会期:2016/09/26~2016/10/01

GALLERY Ami-Kanoko[大阪府]

水色を基調とする画面に描かれた、人、動物、植物、魚類、鳥類、天体など。それらはいずれも人格を持った存在として描かれて、等価な立場で静かに戯れている。大場康弘が描くメルヘンチックな絵画世界を説明すると、こんな感じになるだろう。しかし、本展の面白さは絵の個性だけではない。大小の作品をアトランダムに配したインスタレーション風の展示も大きな魅力なのだ。絵の配列を決めているのは、画中に登場する蔓草らしきもの。ひとつの作品を越えて蔓が延び、隣の作品、そのまた隣の作品へと繋がっていく。この蔓草のおかげで、一つひとつの作品が独立した存在でありながら、全体の一部として有機的に機能しているのだ。見た目はイラスト調で可愛い画風だが、全体を統べるコンセプトはスケールが大きく、骨太なものがある。そのギャップも大場作品の魅力だろう。

2016/09/26(月)(小吹隆文)

プレビュー:THE PLAY since 1967 まだ見ぬ流れの彼方へ

会期:2016/10/22~2017/01/15

国立国際美術館[大阪府]

1967年に結成され、関西を中心に約50年間も活動してきたアーティスト集団「プレイ」。何かをつくるのではなく、行為そのものを表現としてきた彼らの活動を振り返る。発泡スチロールの筏で川を下る、京都から大阪まで羊を連れて旅をする、山頂に約20メートルの三角塔を立てて雷が落ちるのを待ち続けるなど、彼らの活動はつねに美術の制度からはみ出てきた。本展では、そんなプレイの全貌を、印刷物、記録写真、記録映像、音声記録、原寸大資料、未公開資料などで明らかにする。なかでも原寸大資料が持つリアリティー、本展のための調査で見つかった未公開資料の数々は要注目だ。過去の活動を知る人はもちろん、プレイの存在を情報でしか知らない若い世代に是非見てもらいたい。

2016/09/20(火)(小吹隆文)

プレビュー:「ロケーション・ハンティング」ヤマガミユキヒロ展

会期:2016/10/01~2016/11/27

あまらぶアートラボ A-Lab[兵庫県]

実景に基づくモノクロの風景画を描き、その画面上に同一地点で定点撮影した映像を映写する「キャンバスプロジェクション」の作品で知られるヤマガミユキヒロ。彼は昨年にあまらぶアートラボ A-Lab(兵庫県尼崎市)のオープニング展「まちの中の時間」に参加したが、同展の参加者は翌年に尼崎市をテーマにした新作を披露することになっており、本展がその機会に当たる。これまでは主に京都や東京の風景を素材にしてきたヤマガミだが、工業都市のイメージが強い尼崎市からどのような作品を紡ぎ出すのか。約1年間にわたるフィールドワークの成果に期待している。

2016/09/20(火)(小吹隆文)

未知の表現を求めて ─吉原治良の挑戦

会期:2016/09/17~2016/11/27

芦屋市立美術博物館[兵庫県]


関西に住んでいると、美術館で吉原治良の作品に出合う機会が多い。そのせいか、彼の主要作品を知っている気になっていたが、本展を見てそれが浅はかな思い込みだと分かった。本展は、芦屋市立美術博物館と大阪新美術館建設準備室(以下、大阪新美)のダブル主催だが、出展数約90点のうち約2/3が大阪新美のコレクションで、大阪新美が吉原作品をまとめて公開するのは2005年の「生誕100年記念 吉原治良展」以来だという。しかも初公開の作品が約20点もあるというのだから、筆者以外にも驚いた人は多いと思う。展示は年代順に構成され、戦前から終戦直後の作品に見慣れないものが少なからず含まれていた。展覧会のクライマックスは具体美術協会結成から晩年に至る期間だが、ここでの導線が少々ややこしく、先に最晩年の展示が見えてしまうのが惜しい。しかし、展覧会としての充実度は高く、優れた回顧展としておすすめできる。

2016/09/16(金)(小吹隆文)

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星野高志郎 百過事展─記録と記憶─

会期:2016/09/13~2016/09/25

Lumen gallery、galleryMain[京都府]

本展会期中に73歳の誕生日を迎えたベテラン作家の星野高志郎。これまでの活動を振り返る回顧展を、隣接する2つのギャラリーで開催した。作品は彼が活動を開始した1970年代から最近作までのセレクトで構成され、学生時代の石膏像なども含まれていた。そして作品以上に充実していたのが資料類で、ポスター、DM、印刷物、写真、映像、記事が載った新聞や雑誌、メモ、ドローイングなど多岐にわたる。さらに私物が加わることにより、会場は1日では見尽くせないほどの物量と混沌とした雰囲気に。美術家の回顧展であるのと同時に、一個人の年代記でもある風変わりな仕上がりであった。筆者はこれまでに星野の個展を何度も見てきたが、彼がこれほどの記録魔だとは知らなかった。資料のなかには貴重なものが含まれており、作品では1974年に富士ゼロックスのコピー機を用いて制作した《ANIMATION?》などレア物も。美術館学芸員や研究者が見たら、きっと大いにそそられたであろう。

2016/09/13(火)(小吹隆文)